日常生活での注意について
Q1 | マウステープの効果について教えてください。 |
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A1 | マウステープ装着の事例紹介旅行の際にマウステープを忘れた咳喘息の男性。旅行中、起床後は喉がヒリヒリして、咳喘息の症状もぶり返してしまいました。その男性は、あらためて気づいたと言います。就寝時にマウステープをしないだけでこんなに違うのかと。以前の症状を忘れていたのです。これで、睡眠が良好になったことも再認識しました。
就寝中の口呼吸で気道は閉塞する就寝中の口呼吸が引き起こす弊害は、睡眠障害だけではありません。口腔内環境も一気に悪化します。マウステープは、口腔内環境においてもお勧めしたいツールです。
起床時に喉がヒリヒリする、口腔内が粘つくといった症状は、寝ているときの開口状態から引き起こされます。就寝時の開口は、舌根が低下してイビキの原因にもなります。また、就寝中の口呼吸は、上気道の抵抗を増やし気道を閉塞させます1)。そのため寝ているときも口を閉じておきたいものですが、無意識による筋緊張の低下や、うつぶせ寝や寝具の圧迫などにより口が開いてしまうこともあります。そこで活躍するのがマウステープです。強制的に口を閉じさせるので、喉のヒリヒリといった症状の改善の他、気道を拡げ、睡眠改善につながります。
マウステープで気道閉塞が改善マウステーピング後、40%の患者さんで口蓋部、奥舌部の両方で気道の閉塞が大きく改善することがわかっています。「翌朝からグッスリ眠れた」「中途覚醒がなかった」「夜間尿がなかった」「イビキが減った」などの喜びの声も聞かれました。口を閉じておけるのですから、口腔内環境も保たれます。一石二鳥です。
コロナ禍による口呼吸増加コロナ禍以降、長期のマスク生活が続いています。歯科医療従事者ではもともと仕事中にマスクを着用する人が多かったですから、それほど違和感はないことでしょう。ところが一般の人ではそうはいきません。慣れないマスク着用の息苦しさで呼吸数が増えたり、少し動くと酸素飽和度(SpO2)が下がったりします。そのため知らず知らずのうちに口呼吸になっています。口唇閉鎖不全では、口腔乾燥、歯列不正、嚥下障害といったオーラルフレイルが促進されてしまいます。
1) Meurice JC, et al. Effects of mouth opening on upper airway collapsibility in normal sleeping subjects. Am J Respir Crit Care Med. 1996 Jan; 153(1): 255-9.
※参考書籍 |
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Q2 | 歯ぎしりがあるといわれますが、スプリント(マウスピース)は効果ありますか? |
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A2 | 機能的目的はなく無意識に歯を繰り返し擦り合わせたり(グラインディング)、食いしばったり(クレンチング)する人のことを、「ブラキシズムがある」といいます。 スプリントを装着してもブラキシズムは治りません。スプリントがブラキシズムの治療には効果はありません。役に立つとすれば、歯の保護だけです。歯の摩耗や破折を防ぐということですね。 睡眠時はブラキシズムを睡眠と関連した運動障害と分類されている1)ため、心理的ストレスが原因のひとつだと考えられていますが、その他にタバコが原因だと言っている人もいるし2)、酒やコーヒーといった嗜好物が原因であるとか2)遺伝が関与していると唱えている人もいます2)。 いずれにしてもいろんなリスクファクターが挙げられていますが、これだけを治せばブラキシズムの治療になると言っている人はいません。 疫学調査によると、ブラキシズムは若い人が多く、高齢者に少ないという傾向があります。たとえば、発生率が小児で14%、成人で13%、年配者で3%という報告があります2)。ということは、年を取ると自然に治ってしまうことがあるということです。いずれにしても、ブラキシズムがあっても何の症状も問題も生じていなければ治療をする必要はないと考えた方がいいかもしれませんね。 何か症状が出た場合は処置が必要か?というと、まずはその症状に対する治療を行う、つまりブラキシズムの原因は分からないので、対症療法のみ行うということになります。
1) American Academy of Sleep Medicine : Sleep – related bruxism. In ” The International Classification of Sleep Disorders, 3rd edition, edited by Darien,LL.” American Academy of Sleep Medicine, 2014, P. 189-192 2) Bertazzo – Silveria,E. et al. : Association between sleep bruxism and alcohol, caffeine,tobacco, and drug abuse. A systematic review. J.A.D.A., 147: 859-866, 2016
※参考書籍 |
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Q3 | 誤嚥性肺炎はなぜ危険なのでしょうか? |
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A3 | 肺炎は、確かに薬などで治療することができます。しかし、肺炎をひとたび発症してしまうと治療のために体力が落ちますし、高齢の患者さんでは、体力が落ちると肺炎が再び発症しやすくなってきます。そのため、肺炎が繰り返される「誤嚥性肺炎 負のサイクル」に陥ってしまう可能性があります。
※参考書籍 |
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Q4 | 肺炎は薬で治療できるんですか? |
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A4 | 肺炎とは、肺で起こる炎症です。では、炎症とは何かというと、「体内に侵入した異物に対して、人体の免疫機能が抵抗をしている状態」であるといえます。つまり、肺炎は「肺に入ってきた異物に対して人体の免疫機能が働いている状態」、「肺に侵入してきた細菌やウイルスと人体が戦っている状態」なのです。しかも症状が長く、強く出ているということは細菌やウイルスの増殖を抑えきれず戦いが長引いている、もしくは人体が負け気味である状態であるといえます。 ここで、人体に備えられている異物から身を守る仕組みを簡単にみていきましょう。 炎症の原因であった細菌やウイルスは、薬剤で退治することができるのです。細菌やウイルスがいなくなれば、人体の免疫の働きも収まります。(免疫は文字通り「疫病を免れる」という人体の機能です。) 誤嚥性肺炎を発症したとしても、どのような細菌に感染しているかを見定め、適切な抗菌薬を投与すれば治療できます。また、肺炎球菌に関しては予防ワクチンもあります。
※参考書籍 |
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Q5 | 日中起こる食べ物の誤嚥は分かるけど、夜間に唾液や胃食道逆流による誤嚥が起こってるって本当? |
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A5 | 確かに、「本来は気道に入ってはいけないモノが侵入する」という意味では同じ誤嚥ですが、その入っていくモノのサイズや形状が違っているといえます。大きな誤嚥と小さな誤嚥に分けて考えることができます。 大きな誤嚥(macro-aspiration)は、口にした食べ物を誤嚥するということです。大きな誤嚥は、ムセなどの症状が現れることも多いので、誤嚥していると判別がつきやすいといえます。 小さな誤嚥(micro-aspiration)は、口にたまった唾液や汚れ、胃食道逆流で口腔や咽頭に残った胃の内容物が静かに、いつの間にか気道に入っていく、というイメージです。夜間の誤嚥や胃食道逆流による誤嚥は主にこちらに含まれます。小さな誤嚥は外見からはわかりにくいものがあります。夜間の誤嚥というのは健常者でも起きているものであり、防ぎようのないものでもあります。 対応策は、まずは摂食嚥下機能に問題があるということを想定し、食形態の調整に始まり、摂食時のポジショニングや介助法の検討などが必要になります。
※参考書籍 |
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Q6 | 誤嚥性肺炎予防法を教えてください。 |
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A6 | 1.「口腔ケア」が効果的とされています現状では口腔ケアにより歯周病菌を含む口腔内の細菌を全体的に減らすことにより誤嚥性肺炎を予防することが基本とされています。 2. 食形態や食事のときの姿勢、環境を整えましょう誤嚥はその人に合っていない食形態によって発生する可能性が高まります。 たとえば、その人の噛む力が落ちているのに昔のように硬い食べ物を無理やり食べている、飲み込む力が衰えていて水分を普通に飲み込むのが難しくなっているのに、とりみなどをつけずに飲んでいるなどです。場合によっては、誤嚥どころか窒息につながってしまうこともあります。まずは、適切な食形態を探ることが必要になります。 また、食事の際の姿勢も重要です。健常な人であっても不自然な姿勢で飲み込もうとすると誤嚥を起こすことがあります。高齢者になると食事をするのに適切な姿勢を保つことが難しくなったりします。加えて、巧緻性が低下し、食具をうまく使えない場合もあります。そうなると無理やり食べようとして姿勢が崩れたり、適切な分量、大きさにして飲み込むことができない場合があります。正しい姿勢を取れるようにしたり食具も使いやすいものに変えてみたりするなど、工夫の余地があります。 さらに、周囲の環境も影響します。たとえば、テレビを前にして食事をするとそちらに気を取られてしまい、しっかりと食べ物を口の中で処理せずに飲み込もうとしてしまうことがあります。目の前に食事に集中できる環境を構築することも必要です。
3. 肺炎を起こす細菌と戦えるようにする体力や免疫機能が落ちていて細菌と戦えないというならば、まずは体力をつけることが大切です。そのためには、まず栄養を摂ることが重要です。つまり適切な食事が必要になります。十分な食事により栄養を摂ることで、身体も動くようになります。
4. 誤嚥しても喀出できるようになる身体が動くようになるというのは抽象的な表現ですが、たとえば、しっかりと食べ物を噛めるようになると、誤嚥の危険性は減ります。また、万が一誤嚥をしても力強く喀出できれば、肺炎につながることも減るでしょう。
5. 肺炎の原因菌を減らす食事由来の誤嚥は食形態の調整や環境・姿勢・介助などにより減らすことができます。しかし、食事に由来しない誤嚥もありました。そうした誤嚥を完全に防ぐのは難しいかもしれません。 しかし、肺炎の原因となる細菌を減らすことで、肺炎の発症を防ぐことが可能です。そして、その原因となる菌というのは口腔内に生息しているのです。つまり、口腔内をきれいにすることが、肺炎発症予防につながるのです。
6. 心の元気さを取り戻すしっかりと食事ができるようになり、体力がつき、身体に「元気さ」が戻ってくると、心も元気になります。これも抽象的な話になってしまいますが、周囲の人(ご家族や医療者、日常生活で関わる人)からの支えや交流があり、いきいきと生活できることが、誤嚥性肺炎を遠ざけるといえると考えられています。 誤嚥性肺炎予防は口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションといったテクニカルな要素も重要ですが、広い視野を持てば、その人の心身を元気にすることが目標になるといえるのです。
※参考書籍 |
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Q7 | 誤嚥性肺炎はどんな人が起こしやすいんですか? |
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A7 | まず、脳卒中やその後遺症などによって摂食嚥下障害が起こっているかが重要です。摂食嚥下障害がある場合、患者さん本人の能力や機能、そして提供される食事、双方に気を配る必要があるといえます。 経口摂取をしていない場合でも気をつけなければなりません。経口摂取がなくても口は汚れます。むしろ、口から食べていない人ほど、口は汚れやすいともいえます。 胃瘻から栄養を摂っている人も要注意です。胃食道逆流によって胃の内容物が口腔までさかのぼってくる可能性もあります。 そして、何よりも注意したいのは、口から食事を摂れない人、経管栄養のみに頼る人は全身の状態が下がっている場合が多く、つまり肺炎を引き起こしてしまう可能性も高いといえるのです。
※参考書籍 |
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Q8 | 誤嚥性肺炎の予防法として、食事のときおよびその他気をつけることを教えてください。 |
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A8 | 誤嚥を防ぐためには、食べ物をしっかりと食べて、飲み込むことが重要です。いくつか、注目すべき点を挙げていきましょう。 1.食形態についてまず、本人の食べる能力に合わせた食形態で食事が提供されているか、そのことを確認しましょう。摂食嚥下障害がある場合、その人に合わせた食形態がすすめられているはずですし、学会基準などに併せて標準化されています。 ただし、その人に適した食形態というのは変化します。摂食嚥下の能力が向上することもあれば、低下してしまうこともあります。また、病状や体調が安定している場合、頻回な評価・査定を受けることができず、いつの間にか能力と食形態のミスマッチが起こっているということもありえます。 さらに、在宅で容体が落ち着いている人などは、「元気になってきたので、少し形のあるものに挑戦してみよう」ということで、無理して能力に合わないものを食べているケースもあります。 しっかりと食事を摂ることで噛む力が復活し、食形態が上がることがありますし、残念ながら形態を下げなければならない場合もあります。誤嚥性肺炎予防という観点からすれば、能力に合わない食形態のものをムセながらも必死になって口にし続けるよりは、安全・快適に食べられるものをしっかりと食べ、体力や食べる力の回復を待ったほうがよいともいえます。まずは、その人の食べる力と提供されている食事の関係が適切なものであるかを確かめましょう。
2.食べる姿勢について●ムセやすい姿勢を避ける 食べる姿勢というのも重要です。麻痺が残るような脳血管疾患発症後は、その人に残された機能を生かして食べる方法というのも検討されます。それには食べるときの姿勢や、食具の使い方なども含まれます。そして、これも時間の経過のなかで機能を取り戻したり、あるいは失ったりすることもあり、その推移を見守ることも必要で、個別性も高いものといえます。 ただし、一般的にムセやすい食べる時の姿勢というものもあります。「アゴが上がったままの姿勢」はその例です。このまま飲み込むと、食事が一気に気道に入りやすくなります。そのため、こうした姿勢にならないように環境を整えることが重要です。 アゴが上がるというのは、テーブルで食事をしている場合、イスの背で背中が支えられていなかったり、あるいは足がしっかりと床に付いていない状態で身体が動きやすくなったりしている場合によく起きます。
テーブルでの食事の姿勢
ベッド上での食事の場合、そもそも上半身がしっかりと起こされていない場合、アゴが上向きになりがちです。食事の際にはベッドの背をしっかりと起こし、それでも頭頚部が安定しない場合は首周りにクッションなどを入れてアゴが下がるような形にします。目線がやや下を向くような姿勢です。 ベッド上での姿勢
また、食事中もそうした姿勢が崩れないかチェックするといいでしょう。「いただきます」のときは大丈夫だったけれども、身体が動いて最終的には上向きになって無理に飲み込んでムセていた、ということもありえます。
●座り方のポイント ベッド上で食事をされる人の多くは自分で体位を変換できない人です。そのため、誤嚥のリスクだけでなく、褥瘡のリスクも高くなります。 ここで、ベッドでも椅子でもいいので、いちばん理想的な座り方について考えてみましょう。 理想的な座り方とは、最も安定した座位を指します。それは骨盤の左右最下部にある坐骨と尾骨の3点で座ることです。この3点で座ることができているときを「骨盤が立っている状態」といいます。要介護者だけでなく、健常者でも長く座っていると徐々に骨盤が寝てきます。いわゆるずっこけ座りといわれるものです。
ずっこけ座り
この姿勢では体重の多くが仙骨にかかり、普通は座り直しをしますが、要介護者は座り直しができない状態で長い状態を過ごすことになり、四肢、頸部、体幹の筋肉に不必要な緊張がかかります。こうした状況だと食事を食べる時や食事以外でも唾液を飲み込むときにうまく嚥下できず、誤嚥を繰り返すことになります。 ずれをなるべく少なくするために、背部と仙骨の背面への接触や下肢・足底の接触に留意します。つまり背もたれへの接触面積が大きく、均等に重量がかかっているほど、ずれが生じにくいといえます。また下肢や足底でストップを効かせ、ずれないようにすることが大切です。椅子の場合もベッドの場合も、両足がしっかりと接地(接触)していること、これが飲み込むためには大切です。
3.食事以外で気をつけること誤嚥性肺炎は口から食事ができる人にのみ発症する疾患ではありません。 唾液の誤嚥や、胃食道逆流などでも細菌や微細な食塊などが気管に入り込み肺炎を起こしてしまいます。口から食べていないからこそ、その口はなおざりにされている場合も多く、誤嚥性肺炎予防が重要になってきます。 胃食道逆流対策としては、経口摂取ができる人でもそうでない人でも、栄養剤注入後(口から食べている場合は食事後)はすぐに横にならず、しばらくは起こしたまま(起座位)としましょう。同じように、就寝する際もできれば完全に水平位とせずに、できれば頭部を居城した姿勢であるとよいでしょう。とにかく、食後すぐに身体が横になることだけは避けてください。
※参考書籍 |
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Q9 | 肺炎の兆候を教えてください。 |
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A9 | 肺炎は炎症なので炎症の兆候が出てくると考えられます。 その例として、『医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン』*)の「嚥下性肺疾患診断フローチャート」では、「発熱、喀痰、咳嗽、頻呼吸、頻脈」がまず挙げられています。さらに、「高齢者では食欲不振、ADL低下、意識障害、失禁」という項目があります。これらを踏まえて、画像診断(X線やCT)、血液検査などで肺炎かどうかを確かめます。そして、肺炎があるならばその肺炎の原因を探ります。口腔内細菌の誤嚥による誤嚥性肺炎以外にも肺炎の原因はありますし、そもそも発熱は別の部位における感染症によるものかもしれません。治療のためにはまず肺炎を起こしていると確定させ、それからその肺炎の原因を調べる必要があります。 肺炎の兆候に気づき、治療に至るまでの流れ
*)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン, 2012, 34頁.
※参考書籍 |
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Q10 | 誤嚥は口腔やその周辺の部位だけの問題なのでしょうか? |
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A10 | 誤嚥性肺炎予防は全身の問題ともつながります。つまりフレイルやオーラルフレイルといった、高齢期に起こる「衰え」とも関わりがあります。 誤嚥性肺炎を予防することは全身の状態を改善させることにつながるかもしれませんし、全身の状態が良くなると、誤嚥性肺炎を起こしにくくなるともいえます。 誤嚥性肺炎の直接の原因である口腔の汚れを落とすという意味では、口腔ケアを集中して行うことが必要な場合もあります。しかし、そればかりが誤嚥性肺炎予防となるわけではなく、全身の状態を向上させることが重要です。 高齢者に関わる際には、誤嚥性肺炎予防に加えて、高齢者の日常生活の改善を念頭におくとよいでしょう。
※参考書籍 |
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