日常生活での注意について
Q1 | 栄養があり、噛む力も鍛えられると聞いてアーモンドを食べていたら、歯が割れてしまいました。もう食べないほうがよいですか? |
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A1 | ひどく硬いものを噛むことは、歯にとって衝撃でしかありません。歯や、場合によっては首の骨を痛める原因になります。噛む力を鍛えたいなら、あまり硬すぎない食べ物を長く噛むほうが有効です。
※参考書籍 |
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Q2 | どんな間食・飲み物が体にいいですか? |
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A2 | あらゆる点において安全な間食のリストを作るのは至難の業です。 例えば、チーズは歯に対しては安全ですが、飽和脂肪酸や塩分が多く含まれているため、心臓病専門医からは不評です。果物はお菓子よりむし歯になりにくいものの、フルーツジュースのほとんどは糖が非常に多く、安全な飲み物とはいえません。レーズンやアプリコットなどのドライフルーツもまた糖分が多く、安全ではありません。果物の多くは酸性であり、フルーツジュースも含めて摂りすぎると酸蝕症を引き起こす可能性があります。ナッツ類は年長児や大人にとって安全な間食ですが、塩でコーティングしたものはいけません。多くのパンには微量の砂糖が含まれていますが、甘いケーキやビスケットよりはましでしょう。 歯に安全な飲み物は、水と牛乳です。アスパルテームのような代替甘味料で甘味をつけたダイエット飲料はお勧めできません。なぜなら、これらの飲料には酸蝕性があるうえに、甘味を発達させないようにするためにも子供たちには普通の水を与えたほうがよいからです。とはいえ、砂糖入りの紅茶やコーヒー、カカオ飲料を飲んでいる方が、砂糖の入っていない飲み物を飲むのが嫌な場合は、代替甘味料が非常に有用です。
※参考書籍 |
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Q3 | マウステープの効果について教えてください。 |
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A3 | マウステープ装着の事例紹介旅行の際にマウステープを忘れた咳喘息の男性。旅行中、起床後は喉がヒリヒリして、咳喘息の症状もぶり返してしまいました。その男性は、あらためて気づいたと言います。就寝時にマウステープをしないだけでこんなに違うのかと。以前の症状を忘れていたのです。これで、睡眠が良好になったことも再認識しました。
就寝中の口呼吸で気道は閉塞する就寝中の口呼吸が引き起こす弊害は、睡眠障害だけではありません。口腔内環境も一気に悪化します。マウステープは、口腔内環境においてもお勧めしたいツールです。
起床時に喉がヒリヒリする、口腔内が粘つくといった症状は、寝ているときの開口状態から引き起こされます。就寝時の開口は、舌根が低下してイビキの原因にもなります。また、就寝中の口呼吸は、上気道の抵抗を増やし気道を閉塞させます1)。そのため寝ているときも口を閉じておきたいものですが、無意識による筋緊張の低下や、うつぶせ寝や寝具の圧迫などにより口が開いてしまうこともあります。そこで活躍するのがマウステープです。強制的に口を閉じさせるので、喉のヒリヒリといった症状の改善の他、気道を拡げ、睡眠改善につながります。
マウステープで気道閉塞が改善マウステーピング後、40%の患者さんで口蓋部、奥舌部の両方で気道の閉塞が大きく改善することがわかっています。「翌朝からグッスリ眠れた」「中途覚醒がなかった」「夜間尿がなかった」「イビキが減った」などの喜びの声も聞かれました。口を閉じておけるのですから、口腔内環境も保たれます。一石二鳥です。
コロナ禍による口呼吸増加コロナ禍以降、長期のマスク生活が続いています。歯科医療従事者ではもともと仕事中にマスクを着用する人が多かったですから、それほど違和感はないことでしょう。ところが一般の人ではそうはいきません。慣れないマスク着用の息苦しさで呼吸数が増えたり、少し動くと酸素飽和度(SpO2)が下がったりします。そのため知らず知らずのうちに口呼吸になっています。口唇閉鎖不全では、口腔乾燥、歯列不正、嚥下障害といったオーラルフレイルが促進されてしまいます。
1) Meurice JC, et al. Effects of mouth opening on upper airway collapsibility in normal sleeping subjects. Am J Respir Crit Care Med. 1996 Jan; 153(1): 255-9.
※参考書籍 |
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Q4 | 歯ぎしりがあるといわれますが、スプリント(マウスピース)は効果ありますか? |
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A4 | 機能的目的はなく無意識に歯を繰り返し擦り合わせたり(グラインディング)、食いしばったり(クレンチング)する人のことを、「ブラキシズムがある」といいます。 スプリントを装着してもブラキシズムは治りません。スプリントがブラキシズムの治療には効果はありません。役に立つとすれば、歯の保護だけです。歯の摩耗や破折を防ぐということですね。 睡眠時はブラキシズムを睡眠と関連した運動障害と分類されている1)ため、心理的ストレスが原因のひとつだと考えられていますが、その他にタバコが原因だと言っている人もいるし2)、酒やコーヒーといった嗜好物が原因であるとか2)遺伝が関与していると唱えている人もいます2)。 いずれにしてもいろんなリスクファクターが挙げられていますが、これだけを治せばブラキシズムの治療になると言っている人はいません。 疫学調査によると、ブラキシズムは若い人が多く、高齢者に少ないという傾向があります。たとえば、発生率が小児で14%、成人で13%、年配者で3%という報告があります2)。ということは、年を取ると自然に治ってしまうことがあるということです。いずれにしても、ブラキシズムがあっても何の症状も問題も生じていなければ治療をする必要はないと考えた方がいいかもしれませんね。 何か症状が出た場合は処置が必要か?というと、まずはその症状に対する治療を行う、つまりブラキシズムの原因は分からないので、対症療法のみ行うということになります。
1) American Academy of Sleep Medicine : Sleep – related bruxism. In ” The International Classification of Sleep Disorders, 3rd edition, edited by Darien,LL.” American Academy of Sleep Medicine, 2014, P. 189-192 2) Bertazzo – Silveria,E. et al. : Association between sleep bruxism and alcohol, caffeine,tobacco, and drug abuse. A systematic review. J.A.D.A., 147: 859-866, 2016
※参考書籍 |
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Q5 | 夜間睡眠時ブラキシズムは、日中覚醒時ブラキシズムと連動しているとよく聞きますが、本当ですか? |
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A5 | 同一患者内の日中の筋活動と睡眠時の筋活動に連動が見られたとする報告1)などがあります。 一方で、多人数の患者を対象に睡眠時筋活動と日中筋活動の関係を調べた研究で、日中覚醒時と夜間睡眠時の筋活動の多寡は必ずしも同じ傾向を示さず、睡眠時に多いが日中は少ない場合、逆に日中は多いが睡眠時は少ない場合など、様々なパターンがあり、日中覚醒時と夜間睡眠時の筋活動波形数に相関が全く認められなかった2)ものも見られます。 まだ相関関係があるとは断定できません。 1)Sato M, Iizuka T, Watanabe A, et al.: Electromyogram biofeedback training for daytime clenching and its effects on sleep bruxism. J Oral Rehabil, 42(2): 83~89, 2015. 2)三上紗季、山口泰彦、渡辺一彦、他:日中覚醒時と夜間睡眠時における咬筋筋活動の発現頻度は関連するか?日顎誌, 26(第27回大会特別号):126, 2014. ※参考書籍 |
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Q6 | 誤嚥性肺炎はなぜ危険なのでしょうか? |
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A6 | 肺炎は、確かに薬などで治療することができます。しかし、肺炎をひとたび発症してしまうと治療のために体力が落ちますし、高齢の患者さんでは、体力が落ちると肺炎が再び発症しやすくなってきます。そのため、肺炎が繰り返される「誤嚥性肺炎 負のサイクル」に陥ってしまう可能性があります。
※参考書籍 |
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Q7 | 肺炎は薬で治療できるんですか? |
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A7 | 肺炎とは、肺で起こる炎症です。では、炎症とは何かというと、「体内に侵入した異物に対して、人体の免疫機能が抵抗をしている状態」であるといえます。つまり、肺炎は「肺に入ってきた異物に対して人体の免疫機能が働いている状態」、「肺に侵入してきた細菌やウイルスと人体が戦っている状態」なのです。しかも症状が長く、強く出ているということは細菌やウイルスの増殖を抑えきれず戦いが長引いている、もしくは人体が負け気味である状態であるといえます。 ここで、人体に備えられている異物から身を守る仕組みを簡単にみていきましょう。 炎症の原因であった細菌やウイルスは、薬剤で退治することができるのです。細菌やウイルスがいなくなれば、人体の免疫の働きも収まります。(免疫は文字通り「疫病を免れる」という人体の機能です。) 誤嚥性肺炎を発症したとしても、どのような細菌に感染しているかを見定め、適切な抗菌薬を投与すれば治療できます。また、肺炎球菌に関しては予防ワクチンもあります。
※参考書籍 |
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Q8 | 日中起こる食べ物の誤嚥は分かるけど、夜間に唾液や胃食道逆流による誤嚥が起こってるって本当? |
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A8 | 確かに、「本来は気道に入ってはいけないモノが侵入する」という意味では同じ誤嚥ですが、その入っていくモノのサイズや形状が違っているといえます。大きな誤嚥と小さな誤嚥に分けて考えることができます。 大きな誤嚥(macro-aspiration)は、口にした食べ物を誤嚥するということです。大きな誤嚥は、ムセなどの症状が現れることも多いので、誤嚥していると判別がつきやすいといえます。 小さな誤嚥(micro-aspiration)は、口にたまった唾液や汚れ、胃食道逆流で口腔や咽頭に残った胃の内容物が静かに、いつの間にか気道に入っていく、というイメージです。夜間の誤嚥や胃食道逆流による誤嚥は主にこちらに含まれます。小さな誤嚥は外見からはわかりにくいものがあります。夜間の誤嚥というのは健常者でも起きているものであり、防ぎようのないものでもあります。 対応策は、まずは摂食嚥下機能に問題があるということを想定し、食形態の調整に始まり、摂食時のポジショニングや介助法の検討などが必要になります。
※参考書籍 |
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Q9 | 誤嚥性肺炎予防法を教えてください。 |
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A9 | 1.「口腔ケア」が効果的とされています現状では口腔ケアにより歯周病菌を含む口腔内の細菌を全体的に減らすことにより誤嚥性肺炎を予防することが基本とされています。 2. 食形態や食事のときの姿勢、環境を整えましょう誤嚥はその人に合っていない食形態によって発生する可能性が高まります。 たとえば、その人の噛む力が落ちているのに昔のように硬い食べ物を無理やり食べている、飲み込む力が衰えていて水分を普通に飲み込むのが難しくなっているのに、とりみなどをつけずに飲んでいるなどです。場合によっては、誤嚥どころか窒息につながってしまうこともあります。まずは、適切な食形態を探ることが必要になります。 また、食事の際の姿勢も重要です。健常な人であっても不自然な姿勢で飲み込もうとすると誤嚥を起こすことがあります。高齢者になると食事をするのに適切な姿勢を保つことが難しくなったりします。加えて、巧緻性が低下し、食具をうまく使えない場合もあります。そうなると無理やり食べようとして姿勢が崩れたり、適切な分量、大きさにして飲み込むことができない場合があります。正しい姿勢を取れるようにしたり食具も使いやすいものに変えてみたりするなど、工夫の余地があります。 さらに、周囲の環境も影響します。たとえば、テレビを前にして食事をするとそちらに気を取られてしまい、しっかりと食べ物を口の中で処理せずに飲み込もうとしてしまうことがあります。目の前に食事に集中できる環境を構築することも必要です。
3. 肺炎を起こす細菌と戦えるようにする体力や免疫機能が落ちていて細菌と戦えないというならば、まずは体力をつけることが大切です。そのためには、まず栄養を摂ることが重要です。つまり適切な食事が必要になります。十分な食事により栄養を摂ることで、身体も動くようになります。
4. 誤嚥しても喀出できるようになる身体が動くようになるというのは抽象的な表現ですが、たとえば、しっかりと食べ物を噛めるようになると、誤嚥の危険性は減ります。また、万が一誤嚥をしても力強く喀出できれば、肺炎につながることも減るでしょう。
5. 肺炎の原因菌を減らす食事由来の誤嚥は食形態の調整や環境・姿勢・介助などにより減らすことができます。しかし、食事に由来しない誤嚥もありました。そうした誤嚥を完全に防ぐのは難しいかもしれません。 しかし、肺炎の原因となる細菌を減らすことで、肺炎の発症を防ぐことが可能です。そして、その原因となる菌というのは口腔内に生息しているのです。つまり、口腔内をきれいにすることが、肺炎発症予防につながるのです。
6. 心の元気さを取り戻すしっかりと食事ができるようになり、体力がつき、身体に「元気さ」が戻ってくると、心も元気になります。これも抽象的な話になってしまいますが、周囲の人(ご家族や医療者、日常生活で関わる人)からの支えや交流があり、いきいきと生活できることが、誤嚥性肺炎を遠ざけるといえると考えられています。 誤嚥性肺炎予防は口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションといったテクニカルな要素も重要ですが、広い視野を持てば、その人の心身を元気にすることが目標になるといえるのです。
※参考書籍 |
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Q10 | 誤嚥性肺炎はどんな人が起こしやすいんですか? |
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A10 | まず、脳卒中やその後遺症などによって摂食嚥下障害が起こっているかが重要です。摂食嚥下障害がある場合、患者さん本人の能力や機能、そして提供される食事、双方に気を配る必要があるといえます。 経口摂取をしていない場合でも気をつけなければなりません。経口摂取がなくても口は汚れます。むしろ、口から食べていない人ほど、口は汚れやすいともいえます。 胃瘻から栄養を摂っている人も要注意です。胃食道逆流によって胃の内容物が口腔までさかのぼってくる可能性もあります。 そして、何よりも注意したいのは、口から食事を摂れない人、経管栄養のみに頼る人は全身の状態が下がっている場合が多く、つまり肺炎を引き起こしてしまう可能性も高いといえるのです。
※参考書籍 |
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