日常生活での注意について

Q11 誤嚥性肺炎の予防法として、食事のときおよびその他気をつけることを教えてください。
A11

誤嚥を防ぐためには、食べ物をしっかりと食べて、飲み込むことが重要です。いくつか、注目すべき点を挙げていきましょう。

1.食形態について

まず、本人の食べる能力に合わせた食形態で食事が提供されているか、そのことを確認しましょう。摂食嚥下障害がある場合、その人に合わせた食形態がすすめられているはずですし、学会基準などに併せて標準化されています。

ただし、その人に適した食形態というのは変化します。摂食嚥下の能力が向上することもあれば、低下してしまうこともあります。また、病状や体調が安定している場合、頻回な評価・査定を受けることができず、いつの間にか能力と食形態のミスマッチが起こっているということもありえます。

さらに、在宅で容体が落ち着いている人などは、「元気になってきたので、少し形のあるものに挑戦してみよう」ということで、無理して能力に合わないものを食べているケースもあります。

しっかりと食事を摂ることで噛む力が復活し、食形態が上がることがありますし、残念ながら形態を下げなければならない場合もあります。誤嚥性肺炎予防という観点からすれば、能力に合わない食形態のものをムセながらも必死になって口にし続けるよりは、安全・快適に食べられるものをしっかりと食べ、体力や食べる力の回復を待ったほうがよいともいえます。まずは、その人の食べる力と提供されている食事の関係が適切なものであるかを確かめましょう。

 

2.食べる姿勢について

●ムセやすい姿勢を避ける

食べる姿勢というのも重要です。麻痺が残るような脳血管疾患発症後は、その人に残された機能を生かして食べる方法というのも検討されます。それには食べるときの姿勢や、食具の使い方なども含まれます。そして、これも時間の経過のなかで機能を取り戻したり、あるいは失ったりすることもあり、その推移を見守ることも必要で、個別性も高いものといえます。

ただし、一般的にムセやすい食べる時の姿勢というものもあります。「アゴが上がったままの姿勢」はその例です。このまま飲み込むと、食事が一気に気道に入りやすくなります。そのため、こうした姿勢にならないように環境を整えることが重要です。

アゴが上がるというのは、テーブルで食事をしている場合、イスの背で背中が支えられていなかったり、あるいは足がしっかりと床に付いていない状態で身体が動きやすくなったりしている場合によく起きます。

 

テーブルでの食事の姿勢

テーブルでの食事の姿勢

 

ベッド上での食事の場合、そもそも上半身がしっかりと起こされていない場合、アゴが上向きになりがちです。食事の際にはベッドの背をしっかりと起こし、それでも頭頚部が安定しない場合は首周りにクッションなどを入れてアゴが下がるような形にします。目線がやや下を向くような姿勢です。

ベッド上での姿勢

ベッド上での姿勢

 

また、食事中もそうした姿勢が崩れないかチェックするといいでしょう。「いただきます」のときは大丈夫だったけれども、身体が動いて最終的には上向きになって無理に飲み込んでムセていた、ということもありえます。

 

●座り方のポイント

ベッド上で食事をされる人の多くは自分で体位を変換できない人です。そのため、誤嚥のリスクだけでなく、褥瘡のリスクも高くなります。

ここで、ベッドでも椅子でもいいので、いちばん理想的な座り方について考えてみましょう。

理想的な座り方とは、最も安定した座位を指します。それは骨盤の左右最下部にある坐骨と尾骨の3点で座ることです。この3点で座ることができているときを「骨盤が立っている状態」といいます。要介護者だけでなく、健常者でも長く座っていると徐々に骨盤が寝てきます。いわゆるずっこけ座りといわれるものです。

 

ずっこけ座り

ずっこけ座り

 

この姿勢では体重の多くが仙骨にかかり、普通は座り直しをしますが、要介護者は座り直しができない状態で長い状態を過ごすことになり、四肢、頸部、体幹の筋肉に不必要な緊張がかかります。こうした状況だと食事を食べる時や食事以外でも唾液を飲み込むときにうまく嚥下できず、誤嚥を繰り返すことになります。

ずれをなるべく少なくするために、背部と仙骨の背面への接触や下肢・足底の接触に留意します。つまり背もたれへの接触面積が大きく、均等に重量がかかっているほど、ずれが生じにくいといえます。また下肢や足底でストップを効かせ、ずれないようにすることが大切です。椅子の場合もベッドの場合も、両足がしっかりと接地(接触)していること、これが飲み込むためには大切です。

 

3.食事以外で気をつけること

誤嚥性肺炎は口から食事ができる人にのみ発症する疾患ではありません。

唾液の誤嚥や、胃食道逆流などでも細菌や微細な食塊などが気管に入り込み肺炎を起こしてしまいます。口から食べていないからこそ、その口はなおざりにされている場合も多く、誤嚥性肺炎予防が重要になってきます。

胃食道逆流対策としては、経口摂取ができる人でもそうでない人でも、栄養剤注入後(口から食べている場合は食事後)はすぐに横にならず、しばらくは起こしたまま(起座位)としましょう。同じように、就寝する際もできれば完全に水平位とせずに、できれば頭部を居城した姿勢であるとよいでしょう。とにかく、食後すぐに身体が横になることだけは避けてください。

 

※参考書籍
 「口にかかわるすべての人のための誤嚥性肺炎予防」
 米山武義 編著 医歯薬出版株式会社

Q12 肺炎の兆候を教えてください。
A12

肺炎は炎症なので炎症の兆候が出てくると考えられます。

その例として、『医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン』*)の「嚥下性肺疾患診断フローチャート」では、「発熱、喀痰、咳嗽、頻呼吸、頻脈」がまず挙げられています。さらに、「高齢者では食欲不振、ADL低下、意識障害、失禁」という項目があります。これらを踏まえて、画像診断(X線やCT)、血液検査などで肺炎かどうかを確かめます。そして、肺炎があるならばその肺炎の原因を探ります。口腔内細菌の誤嚥による誤嚥性肺炎以外にも肺炎の原因はありますし、そもそも発熱は別の部位における感染症によるものかもしれません。治療のためにはまず肺炎を起こしていると確定させ、それからその肺炎の原因を調べる必要があります。

肺炎の兆候に気づき、治療に至るまでの流れ

肺炎の兆候に気づき、治療に至るまでの流れ

 

*)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン, 2012, 34頁.

 

※参考書籍
 「口にかかわるすべての人のための誤嚥性肺炎予防」
 米山武義 編著 医歯薬出版株式会社

Q13 誤嚥は口腔やその周辺の部位だけの問題なのでしょうか?
A13

誤嚥性肺炎予防は全身の問題ともつながります。つまりフレイルやオーラルフレイルといった、高齢期に起こる「衰え」とも関わりがあります。

誤嚥性肺炎を予防することは全身の状態を改善させることにつながるかもしれませんし、全身の状態が良くなると、誤嚥性肺炎を起こしにくくなるともいえます。

誤嚥性肺炎の直接の原因である口腔の汚れを落とすという意味では、口腔ケアを集中して行うことが必要な場合もあります。しかし、そればかりが誤嚥性肺炎予防となるわけではなく、全身の状態を向上させることが重要です。

高齢者に関わる際には、誤嚥性肺炎予防に加えて、高齢者の日常生活の改善を念頭におくとよいでしょう。

 

※参考書籍
 「口にかかわるすべての人のための誤嚥性肺炎予防」
 米山武義 編著 医歯薬出版株式会社

Q14 ネイザルサイクルって何ですか?
A14

ネイザルサイクルとは、鼻の機能維持のため片側鼻閉が数時間おきに起こる現象です。自律神経作用により引き起こされます。

 

※参考書籍
 「日本歯科医師会雑誌 2020年3月」 日本歯科医師会

Q15 歯が悪いと食べられないものができ、それが栄養の偏りの原因になるのですね。たしかに、お肉とかは食べづらくなりそうですよね。
A15

ご明察です。噛める人と噛めない人の栄養摂取を比べたデータがあるのでご覧ください。噛めない人の食事は糖質過多になりやすく、肉が食べづらくなるためたんぱく質不足にも陥りやすいという特徴があることがわかっています。

噛める高齢者と噛めない高齢者 栄養摂取はどう違う? 健康なからだの維持に欠かせない栄養素が全体的に不足しやすい!糖質過多に!たんぱく質不足に!

※参考書籍 「nico 2018.10 クインテッセンス出版」

Q16 介護をしている親がいます。食事が飲み込みづらそうです。どうしたらよいでしょうか。
A16

飲み込みやすい食物の物性の必要条件として、適切な凝集性がある(食塊としてまとまりがよい)、付着性が低い(粘膜にはりつかない)、変形性が高い(咽頭・食道通過時に形を変える)があげられています。

誤嚥の観点から考えると、嚥下前に食物が咽頭に流れ込んだとしても、咽頭蓋谷領域で食塊としてまとめることができ、ひとたび嚥下が起これば変形性が高く、一塊として咽頭を通過し、咽頭残留を生じない物性が安全と考えられます。摂食・嚥下障害の重症度により対応する食物形態はさまざまです。重症であればゼリー化補助食品やとろみ調整食品を用いて調整したゼリー食やペースト食が用いられており、この段階では均一な物性であることが求められます。機能回復が進めば段階に応じて形のあるものに移行させていきます。

摂食・嚥下運動に過程のなかで、咀嚼は舌の運動と強い連携をもち、食物を粉砕する、唾液と混ぜあわせ飲み込みやすい硬さに調整する、咽頭へ送り込むために口腔内で取りまとめる、という作業を担っています。

この作業をスムーズに行うためには、舌のリハビリができてよく噛める義歯、食べ物を咽頭に送り込める食塊形成のしやすい義歯が必要となります。

舌接触補助床(PAP)という義歯型の口腔内装置で、舌の接触状態等を変化させて咀嚼機能等を改善することができます。

→PAPについてのQ&Aはこちら
「噛む機能を改善するために舌接触補助床(PAP)が有効であると聞きました。詳しく教えてください。」

※参考書籍
 「プロセスモデルで考える摂食・嚥下リハビリテーションの臨床 咀嚼嚥下と食機能」
 才藤 栄一  医師薬出版株式会社

Q17 噛む機能を改善するために舌接触補助床(PAP)が有効であると聞きました。詳しく教えてください。
A17

舌接触補助床(PAP)とは、舌の接触状態等を変化させて咀嚼機能等の改善を図ることを目的とした、口腔内の形態や空隙を考慮して製作された床(義歯)型の口腔内装置のことをいいます。

例1. 上顎義歯の口蓋部を肥厚させたPAP

上顎義歯の口蓋部を肥厚させたPAPの写真

上顎義歯の口蓋部を肥厚させたPAPの装着イメージイラスト

例2. 口蓋部だけの装置(口蓋床)として製作されたPAP

口蓋部だけの装置(口蓋床)として製作されたPAPの写真

口蓋部だけの装置(口蓋床)として製作されたPAPの装着イメージイラスト

対象の疾患等

  • 脳血管障害
  • 口腔腫瘍等による咀嚼機能障害等
  • 神経筋疾患
  • 加齢にともなう嚥下障害

※神経筋疾患では、嚥下障害を契機に病気が発見される場合もあります。

嚥下障害・構音障害に対するPAP

PAPは嚥下構音における舌と口蓋との接触状況を改善するための装置ですので、当然舌と口蓋との接触状況を診査する必要があります。

診査内容
  • 嚥下後の食物の口腔・咽頭残留
  • 咀嚼時の食物の早期流入
  • 発音しづらさ
  • 舌の可動性
  • 舌と口蓋の接触状況(パラトグラム)
  • フードテスト
嚥下障害に対するPAP

頭頚部癌による舌切除術後は、舌の欠損や運動障害が生じます。その結果、舌と口蓋の接触が不良となり嚥下に必要な圧力を産出できなくなるため、嚥下障害が生じます。PAPは義歯床口蓋部に豊隆を付与し、舌が届かない空間を埋める可撤性の装置で、これにより舌と口蓋の接触を補助することが可能となり、嚥下機能の改善が見込まれます。

構音障害に対するPAP

頭頚部癌による舌切除術後は、舌の欠損や運動障害が生じます。その結果、舌と口蓋の接触が不良となり構音点を確保できなくなること、適切なせばめが作れないこと、破裂、破擦などの構音様式に必要な巧緻な動きができなくなることなどにより構音障害が生じます。PAPによる構音機能の改善については、主として硬口蓋部で産生される子音の構音点の回復、構音様式の補助がまず直接的効果として期待され、また共鳴腔としての口腔容積の減少により、一部の母音を改善させることも期待できます。

※口腔内で舌によってつくられる子音

舌の欠損や運動障害がある場合、とくに「カ行」「サ行」「タ行」「ラ行」に影響がみられます。

 

歯肉

硬口蓋

軟口蓋

破裂音

 

タ テ ト

ダ デ ド

 

カ キ ク ケ コ

ガ ギ グ ゲ ゴ

通鼻音

 

ナ ニ ヌ ネ ノ

 

 

摩擦音

サ ス セ ソ

ザ ズ ゼ ゾ

ヤ ユ ヨ

 

破擦音

 

 

弾 音

 

ラ リ ル レ ロ

 

 

 

■PAPの治療費

原則として摂食機能療法を行っていることが必要となりますが、保険治療です。

■正常な食生活のために心がける事

前号でも触れましたが、正常な食生活は口腔機能の維持および全身の健康にとってとても大切です。次のことに気を付けましょう。

1.精製されたものは食べない。(砂糖・小麦粉など)

2.合成されたもの(着色料・甘味料・保存料など)が入っていない食品を選ぶ

3.悪い植物油は避ける(サラダオイル・マヨネーズ・天ぷら油・ゴマ油・ココナッツオイルなど)

4.添加物は避ける(発色剤・酸化防止剤・調味料・乳化剤・pH調整剤など)

5.人工甘味料は絶対に避ける

6.ファストフード・パン類全般は避ける

※参考書籍
 「摂食・嚥下障害、構音障害に対する舌接触補助床(PAP)の診療ガイドライン」
 一般社団法人 日本老年歯科医学会
 社団法人 日本補綴歯科学会

Q18 歯科金属アレルギーについて教えてください。
A18
●金属アレルギーについて

イオン化した金属が生体内に入り免疫反応を誘導することで金属アレルギーを発症します。皮膚や粘膜に直接接して生じる金属接触アレルギーと、歯科金属や商品に含まれている微量金属が体内に吸収されて生じる全身型金属アレルギーがあります。歯科金属による金属接触アレルギーとして、歯科金属と直接接する部位であれば、頬粘膜に白色レース状病変を示す口腔粘膜苔癬や口唇の一部が浮腫性腫脹する肉芽腫性口唇炎などが挙げられます。肉芽腫性口唇炎の場合には、歯性感染症の関与も考えられます。

●歯科金属アレルギーとは?

歯科金属アレルギーによる症状は、口腔内の金属が接触している部位に現れるとは限りません。
むしろ、口腔領域から離れた遠隔の皮膚に現れることが多いのです。よって、まず患者さんは歯科ではなく、その症状に対する医院を受診することになります。アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2012では、専門医に紹介するタイミングとして、「ガイドラインにしたがって1か月程度治療しても皮疹の改善が得られない場合」と記載されています。そのことを参考にし、医師による適切な治療を1ヶ月以上受けても、症状が改善しない場合には、より専門的な対応が必要であり、その1つとして、歯科金属アレルギーを疑うことができるのです。

●歯科金属アレルギーにかかっている人の割合

年齢別では、男女ともに20~29歳がもっとも多く、次に30~39歳の順となっています。これらを合わせると全体の66.3%(男性70.0%、女性64.9%)です。
年齢分布は4~80歳で、平均年齢は33歳(男性31歳、女性34歳)となっています。

性別は全体で、女性が男性の2.6倍以上となっています。各年齢層すべてにおいても男性より女性のほうが多く、とくに50~59歳では女性が男性の4倍以上で最大の差があるという結果が出ています。

●歯科金属アレルギーによる疾患

疾患数は、アトピー性皮膚炎が67.5%と圧倒的に多く、ついで掌蹠膿疱症9.4%湿疹8.5%の順です。
一方、口腔内違和感・口内炎および口腔扁平苔癬を合わせた口腔領域の症状をみてみると、全体では全疾患中2.1%(男性0.4%、女性2.1%)ときわめて少ないことがわかっています。
つまり、歯科金属アレルギーは、口腔内の金属が原因にあるにもかかわらず、その症状は口腔内にほとんど発症せず、口腔内から遠隔の皮膚に発症することが極めて多いということです。他にも、乾癬、にきび、脱毛症などもあります。

●お口の中の金属はなぜ腐食するの?

お口の中は金属を非常に腐食させやすい環境となっており、様々な原因で腐食します。

■プラークや電解質溶液(唾液)などと、つねに接触する
■有機酸などの金属を腐食する物質が存在する
■飲食物の摂取によってpHも温度も変化する
■金属修復物は隣接する歯間部で隙間腐食を起こす
■異種金属の接触によるガルバニー腐食が起こる
■咬合力による応力腐食が起こる
■歯ブラシなどによる擦過腐食が起こる

 ●金属アレルギーを起こしている可能性のある金属を取り除いたのに、なかなか症状が改善しないのはなぜ?

症例の調査・研究からわかったことをまとめておきます。

1. 金属アレルギーの場合、金属が体内に侵入するルートは、歯科金属だけからはなく、いろいろなルートがあった。

2. アレルギー患者は、金属以外のさまざまなものに反応した。

3. 長期に使用していたステロイドを中止すると、症状が急激に悪化することがあった。

※また歯科金属が原因であったとしても、取り除いた後1年以上症状の改善が見られないこともあります。

(別注1)

・歯科金属以外の金属による悪化にも注意を払いましょう!

全身性接触皮膚炎では、歯科金属だけでなく、金属を多く含む食品から経消化管的に吸収される金属についても注意する必要があります。たとえば、ピーナッツなどの種実類や、大豆やお茶には、ニッケルが多く含まれています。しかも、実際に私たちは加工品の形で摂取するため、知らず知らずのうちにニッケルを吸収している可能性すらあります。また、缶詰製品や金属製調理器具からも金属を吸収することもあります。もちろん、水道水中にも金属は含まれており、長時間、水道を使用していない朝一番の水道水には金属濃度が高いこともわかっています。その場合、流し始めてから1分間以上はその水道水を使用しないなどの対応策も有効です。授乳中の母親がクロムを多く含むチョコレートとココアを毎日多量に摂取していたため、その母乳中にクロムが含まれてしまい、母乳を飲んだ乳児の足の裏に汗疱状湿疹が発症したという報告もあります。

このように、日常生活のなかで、金属を吸収する機会が多いことも知っておきましょう。

(別注2)

・水銀について

歯科金属アレルギーの原因金属に関する科学的にエビデンスレベルの高い根拠は、あまり提示されていません。唯一エビデンスとよべる根拠が示されているのは水銀です。歯科用アマルガムの使用によって周辺粘膜に発症する口腔扁平苔癬の原因が水銀である可能性は高いとされています。

(別注3)

・金属アレルギー発症のメカニズム

にきびや湿疹の原因としてニッケルを多く含むチョコレートなどの食品がアレルギーを引き起こすことはよく知られています。また、現在でも掌蹠膿疱症の治療の第一選択は扁桃腺摘出術であることからもわかるように、体の中の慢性炎症の存在がこれら疾患の原因になっていることもあります。すなわち、歯科金属を原因とするアレルギー疾患があったとしても、それが多因子によって引き起こされている疾患である可能性を考えなければならないということになるでしょう。

金属アレルギーの発症については、上皮を通り抜けた金属イオンが何らかのタンパク質と結合して細胞表面上にくっつけることによって(抗原提示)、アレルギー反応をおこしうる状態(感作)になるとされています。しかし、どのように引き起こされるのかの過程についてはほとんど解明されていません。

つまり、体内に存在する金属、食品として摂取する金属、接触する金属など、あらゆる可能性を否定せず、かつ感染や他疾患の存在にも配慮する必要があるということです。もちろん、金属アレルギーが多因子による疾患であっても、金属の除去だけで症状が改善されることもあるということも押さえておきましょう。

※参考書籍
 「見分けて治そう!歯科金属・材料・アレルギー」
 編著 高永和、高理恵子 クインテッセンス出版株式会社

 「外来・訪問診療のためのデンタル・メディカルの接点」
 クインテッセンス出版株式会社

Q19 ピアスなどで金属アレルギーがあります。歯に詰めている金属は大丈夫でしょうか?
A19

ピアスホールが赤くなっている原因が何の金属であるかが問題になってきます。歯科で使用されている金属は合金であるために様々な金属が使用されています。アレルギーの原因金属が歯科用合金の中に使用されていればこれから発症する可能性はあります。金属は水分のあるところで金属イオンという小さな物質となって溶け出しています。この金属イオンが体の免疫細胞と過剰に反応してアレルギーとなります。お口の中に入っている金属に接触している頬や舌が赤くなったり、白くなったりして炎症が起こります。すぐに出る場合もあれば時間がたってから出る場合もあります。また、全身に出る場合もあり、特に手や足の甲に水泡状の皮膚炎が出ることがあります。

ご心配であればかかりつけの歯科医院や金属アレルギー外来などにご相談ください。

※サイト:新潟県歯科医師会
 Q&A(http://www.ha-niigata.jp/health/qa/treatment/09.html)より引用

Q20 金属アレルギーのパッチテストってどんなもの?
A20

パッチテストのスケジュールと内容をご紹介します。

  受診の有無 行うこと 生活上の注意点
1日目 受診する 背部または上腕に試料を貼布する シャワー・入浴は不可。貼布部位が濡れなければ洗髪は可。背部貼布の場合は貼布部位が擦れるリュックタイプのカバン、ランドセルなどの使用は避ける
2日目 受診しない   同上
3日目 受診する 貼布した試料を外して判定する(48時間判定) シャワー・入浴は可であるが、パッチテスト貼布部位に記したマークが消えないように気をつける
4日目 受診する 貼布部位を判定する(72時間判定) 同上
5、6日目 受診しない   同上
7日目 受診する 貼布部位を判定して(1週間判定)、結果を説明する とくになし

 

※参考書籍
 「その皮膚疾患 歯科治療で治るかも」
 監著 押村 進/高橋 愼一 クインテッセンス出版株式会社

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