小児歯科
むし歯の予防
乳歯は、永久歯と比べたいへん弱く、しかも乳幼児の生活はむし歯をつくりやすい条件をそろえています。そのため、周囲の大人が気をつけないと、乳歯はすぐにむし歯になり重症化しやすいのです。
■乳歯とむし歯
1.歯の大きさ、厚さが永久歯の約1/2
硬いエナメル質や象牙質の厚さが永久歯の半分で、永久歯と比べて弱い歯です。
2.口の中が不衛生になりやすい
乳幼児は歯ブラシをうまく使いこなせず、自分できれいにできません。むし歯菌が活動しやすい環境です。
3.むし歯菌が喜ぶ食事の質と回数
子どもの食べ物は、砂糖が使われた甘いものや粘着性の強いものが多いです。
その上、食事やおやつなどの飲食回数も多く、口の中がたびたび酸性になります。
乳幼児のお口は、むし歯の発症しやすい条件が重なります。
■むし歯のできやすいところ
■予防方法
むし歯は細菌による感染症です。お口の中では、歯の表面からリンやカルシウムが溶け出す「脱灰」と、溶け出した成分が再び歯に戻る「再石灰化」が起きています。脱灰が再石灰化を上回ると、歯の表面は溶けて「むし歯」になります。
【むし歯にならないために気をつけること】
1.おやつを食べるとき
だらだら食べるのをやめよう!
だらだら食べてしまうとお口の中がいつも酸性になってしまい、脱灰が再石灰化を上回ってしまいます。与える時間を決め、だらだら食いをさせないようにしましょう。
おやつの選び方に気をつけよう!
砂糖の多い食品はむし歯菌のエサとなるので避けましょう。飲み物は水かお茶にしましょう。
※キシリトールについて
キシリトールとは、「甘い」味がするのに、むし歯にならない甘味料です。
【特徴】
1)むし歯菌の栄養にならない。
2)脱灰を抑制し、再石灰化を促進する。
2.歯のお手入れの仕方
やわらかい食品をやめよう!
お口の中に食べかすが残りやすくなります。
必ず大人による「仕上げ磨き」を実施しよう!
お子さんだけの歯磨きでは、むし歯の原因となるプラーク除去は難しいです。
食後30分してから歯磨きしましょう!
食後すぐはお口の中が酸性になっていて、歯質が軟らかくなっています。その状態でゴシゴシ歯磨きをすると歯が磨耗してしまいます。30分経つまでは歯磨きをせずに、うがいをしっかりしてください。
デンタルフロスを使おう!
歯ブラシによるブラッシングだけでは歯と歯の間の汚れがとりにくいので、デンタルフロスを利用して汚れをしっかり落としましょう。
歯ブラシによるブラッシングだけでは歯と歯の間の汚れがとりにくいので、デンタルフロスを利用して汚れをしっかり落としましょう。
3.むし歯にならない歯を作ろう
フッ素
1)歯の再石灰化を促進する
2)歯の質を丈夫にすることができる
3)口の中の細菌の働きを弱めることができる
※フッ素についてより詳しい情報はこちら
シーラント
シーラントとは、奥歯の噛み合わせの部分にプラスチックを埋め込んで、その部分をむし歯予防しようという方法です。フッ素塗布がフッ素の膜によって歯をむし歯から守るのと理屈は同じです。膜を作る場所と膜にする材料が違うだけです。
当医院ではシーラント治療を保険適用で実施することができます。
きれいな顔・かっこいい顔になろう!
小さい頃の歯並びは、大人になってからの歯並びにも影響してきます。また、歯並びは顔貌・全身疾患にも影響することがわかっています。小さい頃に自然な歯並びを整えておかないと、大人になってからの矯正は顎・骨の成長が終わっているので、抜歯を伴い治療期間も長くなってしまいます。小児期に矯正治療(床矯正)をすることで、本来の歯・顎が成長する正しい軌道に乗せることができるのです。
■乳歯と歯並び
乳歯は、永久歯が適切な位置に生えるように導きます。乳歯がたくさんむし歯で失われると、永久歯を導く担い手がいないので、おかしな位置に永久歯が生えてきます。ガタガタの永久歯列になりやすいのです。
乳歯は、永久歯が適切な位置に生えるように導きます。乳歯がたくさんむし歯で失われると、永久歯を導く担い手がいないので、おかしな位置に永久歯が生えてきます。ガタガタの永久歯列になりやすいのです。
■悪影響を与えるもの
1.態癖
私たちは、自分では気づかない様々な習癖を持っています。日常習慣の中のこのささいな習癖が長期に及ぶと、歯を移動し顎口腔系さらには全身に大きな影響を及ぼします。この顎口腔系に悪影響を及ぼす習癖を態癖といいます。1日1時間の弱い力だとしても、毎日繰り返すと1時間×日数×年数の力が継続的に加わり、歯が動いてしまうことが分かってきました。子どもだけでなく大人にも共通することですので、悪い癖を改善していきましょう。
いつまでも指しゃぶりすると、すきっ歯などの原因になります。
いつまでも指しゃぶりすると、すきっ歯などの原因になります。
椅子に座ったときに足が地面につかないと、安定せずに背筋も曲がってしまいます。
椅子に座ったときに足が地面につかないと、安定せずに背筋も曲がってしまいます。
代表的な態癖
うつぶせ寝 腕枕 アゴで頭を支えての読書 頬杖 うつぶせ腕枕 体育座り
この他、エクボをつくる癖、楽器癖(管楽器)、職業癖、ショルダー癖、趣味癖、家事癖、スポーツ癖、テレビ癖なども問題になることがあります。いつも見にくい位置にあるテレビのほうを向いて食事をしている、いつも片方の手で荷物を持つ、職業上長時間横を向いているなど、あごやからだを歪ませる原因はあらゆるところにあります。舌の癖や唇の癖でも歯並びは影響を受けます。是非一度振り返ってみてください。
2.口呼吸
無意識で口をポカンとあけている方を見かけます。このような方は口呼吸をしています。最近の研究から、口呼吸が様々な健康トラブルの原因となっていることが分かりました。そして、口呼吸を続けていると不正咬合を生み出す悪循環が起こります。
(1)代表的なお口のトラブル
口が乾く(ドライマウス)
口を絶えずあけているために唾液が蒸発し口が乾燥します。
のどが炎症を起こしやすい
空気中の細菌やウイルスがのどの粘膜や気管を直撃します。
前歯の着色
ていねいに歯磨きをしても前歯がすぐ茶色くなります。
むし歯や歯周病になりやすい
唾液の殺菌、抗菌、清浄作用が低下し、口の中はむし歯や歯周病になりやすい環境です。
いびき
口を開けて寝ていると、舌根が気管を塞ぎいびきをかきます。
皮膚疾患の重症化
唾液の殺菌作用が低下し細菌やウイルスが付きやすいからと考えられます。
口臭
口の中の炎症のせいで口が臭います。
(2)不正咬合
上顎前突反対咬合叢 生開 咬 上顎前突反対咬合叢生開咬
(3)治療方法
小児期の歯並びは大人の歯並びに影響を及ぼし、歯並びだけではなく顔貌・全身疾患にも影響することを説明しましたが、治療方法は2種類あります。
(A)Biotherapy(生物学的機能療法)
原因を考え、改めること。
自分で正しく成長することで自分の力で治ること。
・食事の環境を見直す
・悪い習慣をやめる(頬杖、口が開いているなど)
(B)メカニカルな矯正治療
取り外し式の装置、固定式の装置
「(B)メカニカルな矯正治療」だけの治療はありません。「(A)Biotherapy(生物学的機能療法)」が本来の治療であり、これを怠ると後戻りし、また元の状態に戻ってしまうからです。「(B)メカニカルな矯正治療」はあくまでも補助的なものです。
床矯正治療
治療前 治療後 治療前治療後
床矯正治療は第2成長期(混合歯列期)が始まる前の10歳までに終了することを基準としています。早期治療によって歯・顎の発育を正常な軌道に乗せることができれば、その後は自然に負荷をかけることなく成長させることができるためです。
床矯正では治療開始時期を4つに分類しています。
3年ごとに3歳、6歳、9歳、12歳がポイントとなります。
1.乳歯列期 3歳(乳歯列が完成)~6歳
2.混合歯列前期 6歳(前歯の交換・永久歯の生え始め)~9歳
3.混合歯列後期 9歳(犬歯の交換)~12歳
4.永久歯列期 12歳(第2大臼歯の萌出)~(永久歯の完成)
歯の萌出時期は多少のずれがあり、1、2年、長ければ3、4年の場合がありますが、基本はこの分け方になります。
また、成長を考える場合は、第1成長期が終わる6歳と第2成長期が始まる10歳がポイントとなります。
1.6歳までに第1成長期が終わる。
2.6歳~9歳は停滞期となる。
3.10歳から第2成長期が始まる。
(図 顔の発育グラフ)
上記2つの観点から、第2成長期が始まる10歳までを治療終了とするのがよいというのがお分かりいただけたかと思います。しかしながら、10歳以降は治療できないかというとそうではありません。永久歯が完成するまでは床矯正治療はできますが、10歳を過ぎると第2成長期が始まり、永久歯が生えそろってきて、顎が発育してくるため、治療が難しくなるのです。また、治療にはモチベーションも重要なポイントになります。子供の自我が芽生えてくると、親だけのやる気ではうまくいきません。このことからも10歳までに治療を終われるよう、早期治療を心がけましょう。
・モチベーション
1.自我の芽生え以前の10歳まで
親のやる気だけで治療できます。子供のやる気はあまり関係ありません。
2.自我が芽生える10歳~12歳まで
10歳を過ぎると自我が芽生えてくるので、今度は親と本人両者のやる気が必要となってきます。
3.12歳以降
12歳を過ぎると、親がどうこうより本人のやる気次第になってきます。
診査・診断
まずお子さんの発育環境をチェックします。
他には以下のようなことに関してお聞きします。
1.顎の発育状態
2.歯の大きさなどの遺伝的要因
3.態癖などの負の外力・ストレスの有無
4.家庭環境
5.患者さんの治療に対する関心・協力度
なぜ小さな頃からの床矯正が大切なのか
小学生でもネイルでおしゃれをする時代、40%以上の子ども達が歯並びを気にしています。
不正咬合は、「状態の異常」だけで捉えるのではなく、「機能の異常」として捉えるべきです。
口腔機能の減衰は生体の免疫力の減退であり、顔面頭蓋・頸部に及ぶ筋の不活性です。
それは顔貌に大きく関わってきます。治療対象は、歯列だけでなく顔貌です。顔貌は表情筋の活性化により大きく変化します。歯をきれいに並べることも大切ですが、歯を使うことの方がもっと大切です。
参考書籍
- 「態癖と生活習慣のアドバイス(小冊子)」
- 筒井塾 筒井照子
- 「GPのための床矯正・矯正のすすめ」
- 鈴木設也 著(デンタルダイヤモンド社)
- 「臨床医のための床矯正・強制治療【基礎編】/【症例編】/【反対咬合編】」
- 鈴木設也 著(弘文堂)