むし歯
Q1 | なぜむし歯になってしまうのですか? |
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A1 | 歯についたプラークや食べカスにむし歯の元となるミュータンス菌が住みつき、糖分を栄養として酸を出します。 歯は唾液に守られていて、ほんの少し溶けただけなら唾液が修復してくれます(再石灰化)が、酸が多くて修復が間に合わないと、むし歯になってしまいます。 酸による被害を少なくするためには、食習慣など注意すべきポイントはいくつかありますが、まずはむし歯菌を減らすこと。 虫歯菌を減らすと、むし歯になるリスクはぐっと減ります。つまり、唾液による修復が間に合う程度にお口の環境を維持できれば、むし歯の進行を止められるのです。 日本人の約90%以上がむし歯に罹患しているといわれ、軽く見られがちですが再石灰化が不可能なレベルに達したむし歯は自然のままでは元に戻りません。
むし歯発生のメカニズム19世紀以降、むし歯の病因についてさまざまな説が唱えられてきました。 例えば、化学説(食物からできた化学物質によりむし歯は発生する)、細菌説(むし歯の病巣に認められる細菌がエナメル質を侵し、続いて象牙質を崩壊させる)、タンパク質分解説(細菌がまず歯の有機成分を侵し、生じた酸が歯の無機質を脱灰してむし歯が発生する)などがあります。 これらは現在受け入れられているむし歯の病因論の基礎となる考えです。 そして、現在では「宿主、食餌、細菌、時間の4因子がすべて合わさることにより、むし歯は発生する」とされています。 それに対する対策は、次のようなものがあります。 1.細菌因子:プラークコントロールブラッシング指導、フロッシング指導、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning) 2.食餌因子:スクロースの摂取制限食事指導、間食指導 3.宿主因子:歯質の強化、むし歯を形成しやすい歯の形態の改善、唾液の分泌フッ化物の応用、予防填塞(シーラント)、口腔機能改善(あいうべ体操など) ※参考書籍 「nico 2009.2 クインテッセンス出版株式会社」 |
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Q2 | 甘いものをたくさん食べているから、むし歯になるんですよね? |
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A2 | 「量」より「食べ方」が問題です。 甘いものを控えているはずなのに、むし歯になってしまう。それは甘いものの「食べ方」に問題があるのかもしれません。 飲食後、お口のなかでは、細菌の生み出す酸や飲食物の酸により歯の成分が溶け出し(脱灰)、その後、時間をかけて唾液が成分を歯に戻していきます(再石灰化)。溶かす力が戻す力を上回る状態が長期間続くと、むし歯になります。 このとき、甘いものの「量」以上に、食べる「頻度や時間」が問題となります。ひっきりなしに甘いものがお口のなかにあると、唾液が歯を修復する時間が取れません。ですから、のどあめを絶えず舐めていたり、ドリンクをチビチビ飲んでいたりすると、むし歯になりやすいのです。野菜ジュースやスポーツドリンクなど、ヘルシーなイメージのものにも意外に砂糖は入っていますのでご注意を。
※参考書籍 「nico 2020.5 クインテッセンス出版株式会社」 |
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Q3 | 毎日歯磨きをしていても、どうしてむし歯になるのでしょうか? |
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A3 | 毎日の歯磨きはむし歯予防にはとても良いのですが、残念なことにどんなに丁寧に磨いても、むし歯や歯周病の原因であるプラーク(歯垢)は全て取り除く事はできません。 毎食後きちんと歯磨きをしているつもりでも、奥歯の溝、歯と歯の間には歯垢が溜まり、除去しきれないところからむし歯の原因になってしまいます。 毎日の歯磨きに加え、歯科医院で専門的なクリーニングを受け、お口の衛生管理をしっかり行っていくことが大切です。 |
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Q4 | しっかり歯みがきすれば歯垢は完全に取り除くことができるのですか? |
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A4 |
日本人は1日2回以上歯みがきする人が大多数です。むし歯の初発部位は、小窩裂溝、隣接面であり、歯ブラシの毛先の届かない清掃不可能部位に集中しています。歯みがきによる物理的な歯垢除去には限界があります。 歯みがきの限界と日本人のむし歯好発部位※引用元 NPO法人 Well-Being
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Q5 | う蝕(むし歯)はどこにできるんですか? |
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A5 | エナメル質に初めてできたう蝕(原発性う蝕)を考えてみましょう。 口の中のpHはおおよそ7.0(中性)ですが、飲食によって糖が口腔内に入り、歯面に付いたバイオフィルムに取り込まれると、バイオフィルム中の細菌が糖を代謝して酸を出し、pHが低下していきます。 バイオフィルム中のpHが臨界pH(エナメル質pH5.5、象牙質pH6.0)を下回ると、バイオフィルムと接している歯の表面からカルシウムやリン酸などのミネラルが溶け出します。この現象を脱灰といいます。 一方、唾液によって酸が中和され、バイオフィルム中のpHが臨界pHを上回ると、溶け出していたカルシウムやリン酸が歯面に戻る再石灰化が起こります。 バイオフィルムと歯面の境界では脱灰と再石灰化が繰り返されていて、脱灰している時間が長くなるとう蝕になります。バイオフィルムがあるからといって必ずしもう蝕になるわけではありませんが、バイオフィルムなしにう蝕ができることはないのです。 むし歯による脱灰と再石灰化の流れ1.バイオフィルムの成熟種々の細菌がバイオフィルムとして段階的な成熟を遂げ、歯面を覆う。 2.脱灰細菌が糖を代謝して産生された酸(H+)により、歯面からミネラルが溶け出ていく。 3.再石灰化唾液の緩衝作用により酸が中和されると、ミネラルが歯面に戻っていく。
※参考書籍 |
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Q6 | なぜ萌出したての幼若永久歯や露出したての歯根面にはう蝕(むし歯)ができやすいのですか? |
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A6 | 口腔内に露出したばかりの歯は、主成分のハイドロキシアパタイトに不純物が多く含まれていて脱灰しやすい状態です。萌出後は、脱灰と再石灰化を繰り返すことで不純物が取り除かれたりフッ化物を取り込んだりしながら成熟していき、酸への抵抗性が増します。そのため、20歳を過ぎる頃からは、歯冠部エナメル質に初発のう蝕はほとんどできなくなります。 また、露出したての歯根面の象牙質がよりう蝕になりやすいのは、象牙質はエナメル質よりも多く不純物を含んでいるうえ、結晶が小さく酸の影響を受けやすいためです。 Goldberg M, Kulkarni AB, Young M, Boskey A. Dentin: structure, composition and mineralization. Front Biosci(Elite Ed). 2011; 3: 711-735.
※参考書籍 |
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Q7 | プラークは何日たつとう蝕(むし歯)になるんですか? |
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A7 | 糖摂取時に歯が溶けるかどうかは、バイオフィルムの成熟が影響します。 歯磨きを数日間中断してプラークを成熟させ、10%スクロース溶液で洗口を行った研究により、「プラークの成熟が2日を超えると、糖が口腔内に入ってきた後に歯が溶けやすい状態になる1),2)」ということがわかりました。 歯磨きが歯を溶けにくくするステファンカーブで有名なStephanは、ブラッシングの有無が歯面に付いたプラークが歯を溶かしやすいかどうかについて調べています3),4)。 ブラッシングを3~4日中断して前歯に付いたプラークを成熟させ、ブドウ糖溶液で洗口すると、1~2分でプラークの中は歯を溶かしやすい状態になり始めました(脱灰)。その後、唾液の緩衝能により30~60分かけて徐々に回復しました(再石灰化)。 そこで今度は、左側前歯のプラークをブラッシングで除去して、もう一度ブドウ糖溶液で洗口しました。すると、ブラッシングをした部位は歯が溶けやすい状態にはならなかったのです。歯面にバイオフィルムが付いていなければ、飲食をしても歯が溶けやすい状態になりにくいことがわかります。 1) Imfeld T, Lutz F. Intraplaque acid formation assessed in vivo in children and young adults. Pediatric Dentistry. 1980; 2(2): 87-93. 2) Imfeld T. In vivo assessment of plaque acid production. A long-term retrospective study. In: Health and sugar substitutes. ERGOB conference on sugar substitutes, Geneva, 1978: Proceedings. Karger, 1978; 218-223. 3) Stephan RM. Changes in hydrogen-ion concentration on tooth surfaces and in carious lesions. J Am Dent Assoc. 1940; 27(5): 718-723. 4) Stephan RM, Miller BF. A quantitative method for evaluating physical and chemical agents which modify production of acids in bacterial plaques on human teeth. J Dent Res. 1943; 22(1): 45-51.
※参考書籍 |
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Q8 | 歯磨きは1日何回すればいいんですか?また、いつ歯磨きしたらいいですか? |
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A8 | 1日に2回以上歯を磨くとよいでしょう。そのうち1回は就寝前に歯磨きしましょう。 ドライマウスの方は毎食後+就寝前にフッ化物のプラスケアを心がけましょう。
※参考書籍 |
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Q9 | むし歯が減っているって言われていますが、大人のむし歯は減っていないってホント? |
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A9 | むし歯は全体としては昔より減っているのは事実です。しかし、それは子どもと若者に関してのことで、中高年のむし歯はそれほど減っていません。 むし歯(処置した歯を含む)を経験した人の割合の推移を、年齢別に示した図をご覧ください。 永久歯のむし歯保有者率の推移(歯科疾患実態調査)19歳以下の年齢集団では、昔と比べて大きく減少しているのですが、一方で25歳以上ではほとんど減っていないことが分かります。 中高年になると、歯ぐき(歯肉)が後退して歯の根元部分が現れてきます。ここにプラーク(歯垢)が堆積し、その中の一部の細菌から酸が産生されて歯が溶けたものを「根面むし歯」といいます。 歯ぐきが後退する理由は、加齢、不適切なブラッシング、歯周病などです。歯の表面は硬くて丈夫なエナメル質で覆われていますが、歯の根元部分は薄いセメント質で覆われており、その下には軟らかい象牙質があります。そのため、歯ぐきが下がり、歯の根元が露出すると、むし歯になりやすくなります。 大人むし歯の有病率(歯肉退縮がある者での割合)「根面う蝕の臨床戦略」(杉原直樹・高柳篤史監著、18ページ、クインテッセンス出版株式会社、2018年)より引用改変 男性は30歳、女性は40歳以上になると大人むし歯が増加してきます。大人むし歯の一番大きな原因は歯ぐきの後退ですので、この原因を取り除き、かかりつけの歯科医院で定期的な歯科検診を受け、保健指導(ブラッシング指導)や予防処置を行ってもらうことが大切です。
※参考書籍 |
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Q10 | フロスでう蝕(むし歯)を予防できますか? |
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A10 | フロスで確実なう蝕のコントロールができるとは言い切れないものの、歯肉炎や歯周病の予防、露出した歯根面のう蝕のコントロールにはフロスや歯間ブラシは不可欠です。
※参考書籍 |
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