他疾病の治療中の方

Q121 糖尿病患者に外科処置を行うときには、より徹底した抗菌薬投与を選択すべきでしょうか?
A121

血糖コントロールされた糖尿病患者における歯周外科治療後の手術部位感染(Surgical site infection : SSI)のリスクは、健常者と同程度であるため、徹底した抗菌薬投与を選択する必要はありません。しかし、血糖コントロールが不良の糖尿病患者の外科処置に際しては感染のリスクがあるため、術前、術後の抗菌薬の予防投与を行うことが望ましいです。

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q122 糖尿病患者にインプラント治療を行うと非糖尿病者と同等の治療結果を得ることができるでしょうか?
A122

コントロール良好な糖尿病患者に対するインプラント治療歯、成功率、生存率ともに高く、非糖尿病者と同等の治療結果が得られるとの報告があるが、それらに否定的なものも存在します。また、多くの場合、コントロールの基準があいまいなため、積極的に推奨できません。

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q123 口腔内の細菌は血管内に侵入しやすいって本当?
A123

「天皇陛下の執刀医」である天野先生が週刊新潮の連載「『佳(よ)く生きる』ための処方箋」第5回(2016年6月9日号)の「口は災いの元」というエッセイのなかで、

「厄介なことに口腔内の細菌は血液中に入り込みやすい傾向があるようです。(中略)こういった事態を防ごうと、心臓やがんの手術、抗がん剤による化学療法などの前に、歯科医師のもとで口腔内をきれいにする『周術期口腔ケア』が行われています」

「また最近、注目されているのが『慢性炎症』です。たとえば歯周病で歯茎に炎症があると(中略)その免疫の連鎖反応が血管内にも飛び火します。その結果、起こるのが動脈硬化の悪化。(中略)実際、歯周病の人は心筋梗塞になるリスクが高いという報告もあるほどです」

と書かれています。

 

天野先生は「口腔内の細菌は血管内に侵入しやすい」ということを、「医学の教科書には書かれていません。7200例以上の心臓手術をしてきた外科医の実感であり発見」だと書かれているのです。

 

そしてエッセイの最後は、「まさに口は病の元。下手をすると命取りになりますから、くれぐれもご用心を」と結んでいます。

 

※参考書籍
 「全ての病気は「口の中」から!」 森永 宏喜 著  さくら舎

Q124 がん患者に口腔健康管理が必要って本当ですか?
A124

がん治療による副作用やがんの合併症により口腔トラブルが起こり、経口摂取が困難になります。これが低栄養、免疫能低下を招きます。そのため、口腔健康管理が必要となります。

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q125 がん患者の口腔健康管理ってどんなことをするのですか?
A125

口腔健康管理は、口腔機能管理、口腔衛生管理、口腔ケアの3つに分類されますが、決して難しいものではありません。詳しくは下記をご確認ください。

1.口腔機能管理

  • う蝕処置
  • 感染根管処置
  • 口腔粘膜炎処置
  • 歯周関連処置
  • 抜歯
  • ブリッジや義歯の処置、調整
  • 摂食機能療法

 

2.口腔衛生管理

【日常的な歯科診療】

  • バイオフィルム除去
  • 歯間部清掃
  • 口腔内洗浄
  • 舌苔除去
  • 歯石除去

 

3.口腔ケア

3-1.口腔清掃

【日常的な歯科診療】

  • 口腔清掃
  • 歯ブラシの保管
  • 義歯の清掃・着脱・保管
  • 歯みがき

 

3-2.食事への準備
  • 嚥下体操指導(ごっくん体操)
  • 唾液腺マッサージ
  • 舌・口唇・頬粘膜ストレッチ訓練
  • 姿勢調査
  • 食事介助

 

櫻井 薫、日本歯科医師会雑誌、69(4)、16-17、2016より引用改変

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q126 がん患者にどんな口腔トラブルが起こるのでしょうか?
A126

がん患者に起こる口腔トラブルは、がん治療のステージにより異なります。

1.治療期

  • 口腔粘膜炎
  • 口腔乾燥症
  • 味覚障害
  • 感染症

 

2.再発・転移期

  • 口腔粘膜炎
  • 口腔乾燥症
  • 味覚障害
  • 感染症

 

3.終末期

  • 口腔乾燥症
  • 味覚障害
  • 感染症
  • 摂食・嚥下障害

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q127 周術期に口腔機能管理を行うメリットはありますか?また、どんなことをするのですか?
A127

周術期等口腔機能管理のメリット

  1. 頭頚部がんの術後感染による合併症の減少
  2. 肺がんや食道がんの術後肺炎の減少
  3. 術後の経口摂取の開始を早める
  4. 術後在院日数の削減効果
  5. 気管内挿管時のリスク軽減(歯の破折、脱落など)

 

これらは患者、病院側双方にとって有用性が高いものとなっています。

 

周術期等口腔機能管理の内容

  1. がん治療における口腔健康管理の必要性についての説明
  2. 口腔内診査、歯周基本検査
  3. セルフケア方法の説明と指導
  4. 歯石除去、機械的歯面清掃
  5. う蝕、歯周病、義歯などに関する可及的治療

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q128 抗がん剤を飲むようになって最近口腔粘膜炎ができるようになったのですが、どうしたらいいでしょう?
A128

口腔粘膜炎を起こしやすい抗がん剤には、細胞傷害性薬分子標的薬があります。

細胞傷害性薬

代謝拮抗薬

フルオロウラシル(5FU)

メトトレキサート

抗腫瘍性

抗生物質

ドキソルビシン

ダウノルビシン
微小管阻害薬

パクリタキセル

ドセタキセル

 

分子標的薬

mTOR阻害薬

エベロリムス

テムシロリムス

 

 

口腔粘膜炎への考え方としては、栄養の管理、感染の防止、疼痛のコントロールの3要素が欠かせません。

1.栄養の管理

栄養の管理については、次の5つに注意しましょう。

  1. 十分なカロリー摂取と栄養バランス
  2. 食事内容や調理方法の工夫
  3. 十分な水分摂取
  4. 輸液や人工的な栄養補給も考慮
  5. 精神状態

 

2.口腔内の保清・保温

感染の防止については、口腔内の保清・保温に注意します。

口腔内の保清
  1. セルフケアが基本
  2. がん治療開始前の周術期等口腔機能管理
  3. 口腔清掃状態、口腔粘膜の状態、唾液量と性状、舌苔と口臭、歯や義歯の状態
  4. 含嗽・ブラッシング、歯石除去・PMTC

 

口腔内の保温
  1. スプレー等で頻回に少量の水分を口に含む
  2. アイスボールをなめる
  3. 保湿剤の使用(液状やジェル状、味、価格、好み)
  4. 過度含嗽は逆効果

 

※色々な方法を組み合わせて行ってみることが大切です。

 

3.疼痛のコントロール

疼痛のコントロールには5つの方法があります。

1)冷却法
  • アイスボール

 

2)局所麻酔薬
  • 生食水+4%キシロカイン®
  • キシロカイン®ビスカス

 

3)NSAIDs
  • シロップ、錠剤

 

4)オピオイド
  • モルヒネ、オキシコドン塩酸塩
  • フェンタニルクエン酸塩

 

5)口腔粘膜保護材
  • エピシル®口腔用液

 

口腔粘膜炎の予防は困難であり、症状の重篤化を防ぐことが大切です。

口腔健康管理(口腔内保清、口腔内保湿、疼痛緩和)を行うことによって二次感染を防止します。

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q129 今がんの治療中なのですが、上顎にいつからか擦ってもとれない白斑状の出来物が出来てるのに気づいたのですが何ですか?どうしたらいいのでしょう?
A129

真菌(Candida albicans)の感染と思われます。

口腔カンジダ症の感染

感染には全身的リスク因子局所的リスク因子があります。

全身的リスク因子

1.易感染性宿主(免疫不全状態)

2.日和見感染症

  • がん、AIDS、高齢者など
  • ステロイド剤など

 

3.菌交代現象

  • 抗菌剤の長期投与

 

局所的リスク因子
  1. 口腔粘膜の損傷
  2. 口腔環境の悪化

 

  • 口腔乾燥症
  • 義歯の使用(粘膜に傷がつき、付着しやすくなる)
  • 口腔清掃状態の悪化(悪化しやすくなる)

 

口腔カンジダ症の臨床的分類

疾患 症状 好発部位 特徴
偽膜性口腔カンジダ症

灰白色、苔状

擦ると剥離する
口腔粘膜全体

急性

鷲口瘡ともいう
肥厚性口腔カンジダ症

肥厚した白斑

擦っても剥離しない
頬粘膜、舌、口蓋

慢性

白板症との鑑別が必要
紅斑性(萎縮性)口腔カンジダ症

紅斑、びらん

灼熱感、疼痛

口角炎を伴う
口蓋、舌、口角、歯肉 義歯性口内炎

 

口腔カンジダ症の診断

臨床診断
  1. 全身的、局所的リスク因子を有する
  2. 特有の自覚症状、他覚所見を有する
    (白斑、発赤、びらん、疼痛、味覚障害など)

 

確定診断
  1. 培養による真菌学的検査
  2. 塗抹標本の鏡検による診断
    (カンジダの仮性菌糸などの証明)

 

※全身的、局所的リスク因子があり、特有の自覚症状と他感的所見があれば、培養や鏡検による確定診断は必ずしも必要でなく、臨床診断により治療を行います。

 

抗真菌薬

アムホテリシンB(ファンギゾン®シロップ)、ミコナゾールゲル(フロリード®ゲル)
  • 菌体に直接作用
  • 非吸収性
  • 使用が頻回
  • 使用量が大量

 

イトラコナゾール(イトリゾール®) カプセル、内用液、注射用
  • 菌体に直接作用(内用液)
  • 吸収性
  • 使用方法が容易(内用液:1日1回、20ml)
  • 軟便、下痢、悪心

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q130 糖尿病だと歯周病になりやすいだけでなく、逆に歯周病で糖尿病が悪くなるというのはホントですか?
A130

まだナゾも多いのですが、近年の研究では歯周病になると血糖値のコントロールを邪魔する毒素が出ることがわかってきました。
どうやら歯周病と糖尿病は、お互いに悪さをし合っているようです。
運動しても食事療法をしても糖尿病がよくならなかった人が、歯周病の治療をしたら糖尿病のデータが改善した、という研究結果も出ています。歯周病菌の出す毒素とからだの免疫機能が戦うと、インスリンの働きを鈍らせる物質が出て、血糖値のコントロールが難しくなるからだと考えられています。糖尿病に限らず、心筋梗塞、動脈硬化などを悪化させることもわかってきています。お口の健康はもちろん、全身の健康のためにも、歯周病の治療を早期にはじめましょう!

※参考書籍 「nico 2011.5 クインテッセンス出版株式会社」

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