他疾病の治療中の方

Q111 糖尿病は歯周病を悪化させますか?
A111

血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病を悪化させます。

血糖コントロールの状態と歯周病の関係を調べた研究では、血糖コントロールが極めて不良な2型糖尿病患者(HbA1c ≧ 9%)は、非糖尿病者やHbA1c < 9%の2型糖尿病患者と比較して歯槽骨吸収のリスクがより高いことが示されています1)。ほかにも、血糖コントロールが極めて不良な2型糖尿病患者(HbA1c > 9%)は、非糖尿病者に比べて歯周炎のリスクは2.9倍であるが、HbA1c ≦ 9%では、非糖尿病者と比較して進行した歯周炎が多い傾向はあるものの、そのリスクに統計学的に有意な差はなかったとの報告があります2)。1型糖尿病の血糖コントロールに関しても、血糖コントロールの不良な糖尿病患者では、血糖コントロールのよい患者に比べ、歯槽骨吸収が多いことが報告されています3, 4)。メタアナリシスによる解析では、糖尿病患者では非糖尿病者と比較して歯周組織の状態が悪化していることが示されています5)。特に2型糖尿病は歯周炎の危険因子となる結果が得られています6)

以上のことから、血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病の進行に関与し、歯周病を悪化させると判断されます。

1)Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M. Glycemic control and alveolar bone loss progression in type 2 diabetes. Ann Periodontol. 1998; 3: 30-9.

2)Tsai C, Hayes C, Taylor GW. Glycemic control of type 2 diabetes and severe periodontal disease in the US adult population. Community Dent Oral Epidemiol. 2002; 30: 182-92.

3)Tervonen T, Karjalainen K, Knuuttila M, Huumonen S. Alveolar bone loss in type 1 diabetic subjects. J Clin Periodontol. 2000; 27: 567-71.

4)Seppälä B, Seppälä M, Ainamo J. A longitudinal study on insulin-dependent diabetes mellitus and periodontal disease. J Clin Periodontol. 1993; 20: 161-5.

5)Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabetes Complications. 2006; 20: 59-68.

6)Chávarry NG, Vettore MV, Sansone C, Sheiham A. The relationship between diabetes mellitus and destructive periodontal disease: a meta-analysis. Oral Health Prev Dent. 2009; 7: 107-27.

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q112 糖尿病は骨粗しょう症をより悪化させるって本当?
A112

骨粗しょう症といえば骨がスカスカ(骨密度の低下)と想像される方も多いのではないでしょうか?確かに、骨密度(骨の量)は骨強度を保つために非常に重要です。しかし、中には骨密度がそれほど低下していなくても脆弱性骨折を起こす方がいます。近年ではさまざまな研究が進み、骨強度は骨量だけではなく「骨質」も重要であることが明らかになっています。ヘモグロビンA1cと同じように、骨量だけではなく質が大事なのです。その骨の質(骨質)が悪くなる代表的な病気が糖尿病です。

骨粗しょう症は糖尿病と同様に、骨密度や骨強度が低下しても症状に現れず、身長低下や円背(えんぱい)、骨折によって初めて自覚されます。骨粗しょう症による骨折を脆弱性骨折と呼び、起こりやすい部位は大腿骨近位部(鼠径<そけい>部)、椎体(背骨)、前腕骨遠位端(手首)、上腕骨近位部(肩関節・腕)、肋骨(ろっこつ)などです。特に、大腿骨近位部骨折と椎体骨折が起こると生活に大きな影響を及ぼすだけではなく、寿命が短くなることがよく知られています。海外の人に比べて日本人では椎体骨折のリスクが高く、椎体骨折の約7割は無自覚症の「いつの間にか骨折」といわれています。身長が若い時に比べて2~4cm低下していれば「いつの間にか骨折」がある可能性があるため、一度主治医の先生に相談してみるとよいですね。

 

※参考書籍
 「月刊 糖尿病ライフ さかえ 2022年7月号」
 公益社団法人 日本糖尿病協会

Q113 血糖コントロールによって歯周病が改善しますか?
A113

コントロールされていない糖尿病患者では歯周病が重症化し、歯を失うリスクも高いことから、血糖コントロールを行うことは重要です。血糖コントロールが歯周病に与える影響について、血糖コントロールを行わない群をコントロールとしてランダム化比較試験を行うことは倫理的に困難です。また、血糖コントロールを強化療法群と通常療法群に分けて歯周病に与える影響について検討したランダム化比較試験はいまだ報告されていません。前後比較試験においては、糖尿病治療による血糖コントロールの改善に伴い歯肉の炎症の改善がみられましたが、歯周ポケットやアタッチメントレベルの改善は認められていません。

糖尿病治療そのものによる歯周組織の改善については報告が少なく、さらなる研究が必要です。しかし糖尿病治療による歯周組織の改善は限定的であり、原因であるプラーク細菌に対する歯周治療を行わずに、糖尿病の治療のみで歯周病の改善を期待することは推奨されていません。ただし、コントロール不良の糖尿病は歯周病のリスク要因になると考えられるため、歯周治療を成功させるうえでも糖尿病管理を徹底することは必須です。

糖尿病治療が歯周病の病態に与える影響については、ほとんど報告が認められていませんが、糖尿病治療による血糖コントロールの改善によって歯肉の炎症は改善するものの、歯周ポケットやアタッチメントレベルに有意な改善は認められないという報告があります1)

1)Katagiri S, Nitta H, Nagasawa T, Izumi Y, Kanazawa M, Matsuo A, Chiba H, Fukui M, Nakamura N, Oseko F, Kanamura N, Inagaki K, Noguchi T, Naruse K, Matsubara T, Miyazaki S, Miyauchi T, Ando Y, Hanada N, Inoue S. Effect of glycemic control on periodontitis in type 2 diabetic patients with periodontal disease. J Diabetes Investig. 2013; 4: 320-5.

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q114 血糖値コントロールと新型コロナウイルスとの関係性を教えて下さい。
A114

血糖値コントロールが悪いとCOVID-19の重症化・死亡リスクが上がるという報告があります。良い血糖コントロールを心掛けて健康的に過ごすことが、COVID-19に打ち勝つ秘訣なのです。

 

※参考書籍
 「月刊 糖尿病ライフ さかえ 2020年9月号」
 日本糖尿病協会

Q115 この新型コロナウイルス感染症の拡大下で、しっかり血糖コントロールをよくするにはどうしたらいいですか?
A115

コロナ禍で血糖コントロールが良くなる人、悪くなる人の行動例について、食事と運動の観点から日々をどのように過ごせばよいのか説明します。

血糖コントロールが良くなる人

食事
  • 夕食の時間が早くなった
  • 時間ができたので自分で調理をしている
  • 職場でのストレスが減ってストレス食いがなくなった
  • テレワークで間食をしなくなった
  • バランスを考えて食べている
  • 外食が減った、接待での食事が減った
  • 倹約のため食事が質素になった

 

運動
  • 生活リズムが規則的になった
  • 隙間時間に歩くようにしている
  • 家で運動をしている
  • 大掃除や断捨離をした

 

血糖コントロールが悪くなる人

食事
  • 朝から晩まで食べている
  • 買いだめをして、ついつい食べてしまう
  • ストレスで食べてしまう
  • 退屈で何かをつまんでしまう
  • 免疫力をつけようとたくさん食べている
  • テイクアウトをよく活用している
  • Go To Eatなどでつい食べ過ぎた
  • 家でお酒を飲みすぎている

 

運動
  • 在宅勤務で徒歩時間が減少した
  • 外出を控え、買い物に行く回数が減った
  • ジムに行けなくなった
  • 家でゴロゴロしている

 

※参考書籍
 「月刊 糖尿病ライフ さかえ 2021年特別号」 日本糖尿病学会

Q116 歯が痛くても血糖値は上がりますか?
A116

ストレスを感じると戦闘モードとなり、心臓が血液をたくさん送り出し、全身にエネルギーを供給するために血糖値が上がります。

歯が痛いときも、身体的ストレスから血糖値は上がります。

歯医者さんで緊張や不安を感じるときも自律神経の交感神経が刺激されて血糖値が上がります。

お口に痛みがあればすぐに歯医者さんで原因を調べてもらい、痛みをとってもらいましょう。

痛みのない身体と心の平穏が血糖値を下げ、糖尿病になりにくい体質をつくり、糖尿病を改善する秘訣となります。

※参考書籍
 「歯医者さんに行きたくなるお口と糖尿病のお話」
 西田 亙 クインテッセンス出版株式会社

Q117 糖尿病患者に対して口腔清掃習慣を確立するような患者教育は、良好な血糖コントロールの維持に有効ですか?
A117

良好な口腔清掃習慣は、糖尿病に関する患者の自己効力感を高め、糖尿病の発症や悪化を予防できる可能性があります。

歯周病と糖尿病の発症と悪化は、不良な口腔清掃習慣および生活習慣(食事、運動、睡眠、ストレス、喫煙、飲酒)と関連しています1, 2)

1)Zini A, Sgaan-Cohen HD, Marcenes W, Socio-economic position, smoking, and plaque. A pathway to severe chronic periodontitis. J Clin Periodontol. 2011; 38: 229-35.

2)Lagas EJP, Costa FO, Lages EMB, Costa LOM, Cortelli SC, Nobre-Franco GC, Cyrino RM, Cortelli JR. Risk variables in the association between frequency of alcohol consumption and periodontitis. J Clin Periodontol. 2012; 39: 115-22.

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q118 糖尿病患者に対する歯周治療で、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)単独療法と比べ、抗菌療法(局所あるいは経口)の併用は有効ですか?
A118

歯周炎を合併した糖尿病患者に対する歯周基本治療では抗菌療法の併用を考慮するべきです。とりわけ、糖尿病を合併した広汎型慢性歯周炎、あるいは重度の糖尿病関連性歯周炎やSRPで器具の到達が困難と判断される重度歯周炎症例に対しては推奨されます。

歯周病患者に対する抗菌療法のこれまでの研究報告をまとめると、通常の機械的プラークコントロールに反応が良好な全身的に健康な慢性歯周炎患者に対して、抗菌療法を併用した場合の付加的効果は、あまり期待できないというのがコンセンサスです。一方、通常の治療に対する反応が不良な治療抵抗性歯周炎患者や広範型重度歯周炎患者においては、抗菌療法の併用が有効と考えられています1)。さらに、血糖コントロール不良の糖尿病により、宿主の生体防御能が低下している易感染性の歯周炎患者や動脈硬化性疾患により血管内皮機能障害を有する歯周炎患者に対しては、歯周治療の反応性を向上させるとともに、全身および他臓器への悪影響を減少させる目的で、抗菌療法の併用が推奨されています1)

1)日本歯周病学会編. 歯周病患者における抗菌療法の指針. 2010.

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q119 糖尿病患者に歯周外科治療等の観血的処置を行う際の血糖コントロールの目安はありますか?
A119

糖尿病患者に歯周外科治療等の観血的処置を行う際の直接的な血糖コントロール値の基準はありません。しかし、経皮冠動脈インターベンション(経皮冠動脈形成術)を行った日本人糖尿病患者における研究では、HbA1cが6.9%未満の患者は、6.9%以上の患者より治療結果は良好でした1)。相対的に侵襲性の低い歯周外科治療ではHbA1c6.9%前後を参考値としてよいと考えられます。

1)Ike A, Nishikawa H, Shirai K, Kuwano T, Fukuda Y, Takamiya Y, Yanagi D, Kubota K, Tsuchiya Y, Zhang B, Miura S, Saku K. Impact of glycemic control on the clinical outcome in diabetic patients with percutaneous coronary .intervention : from the FU-refistry. Circ J. 2011; 75: 791-9.

(日本語による解説:日内会誌. 2012; 101: 504-11.)

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

Q120 糖尿病患者の抜歯や歯周基本治療、歯周外科治療の際にワーファリンの服用は中止すべきでしょうか?
A120

ワーファリン服用患者に関しては、休薬によって生じる可能性のあるイベントのリスクは、服用持続によって生じる観血的処置の際の出血のリスクを上回ると推定され、抜歯や歯周基本治療、歯周外科治療などの際に休薬は行わないことが勧められます。

※参考書籍
 「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版 2014」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編  日本歯周病学会

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