矯正治療

Q31 おとなの矯正では、子どもと違って歯を抜くことが多いと聞きました。抜歯をしたくないけど抜かなければダメ?
A31

必ずしも抜かない治療が良い治療ではありません。

患者さんのの混雑具合によって、ケース・バイ・ケースでしょう。
なるべく抜歯をせずに、機能的にも審美的にもクオリティの高い治療を実現しご満足いただきたいという気持ちは、私たち歯科医師も同じです。
ただ、叢生でがひどく混雑しているかたの歯を抜かずに並べようとすると、場所が足りないため、歯列を外側に広げて並べざるを得ません。すると、きれいに並んだとしても、前歯が外側に突き出て、仕上がりが出っ歯になってしまうことがあります。

このように、歯をきれいに並べるためのスペースが足りないときには抜歯が必要になります。
抜歯を避けて、狭いところに無理に並べると前歯がせり出してしまうからです。
子どもの場合、あごの骨の成長を促し歯を並べるスペースを作ることが可能です。
でも、あごの骨が完成しているおとなでは残念ながらそれが難しいのです。
そこで歯を並べるスペースを作るために抜歯が必要になる割合が高くなります。
抜かずに無理して歯を並べてもきれいな口もとは創れません。

アジア人の場合、お口に奥行きがないため、とくに叢生の治療をご希望のかたは抜歯をしてスペースを作ったほうが無理なくが並び、口もとが引っ込んでその分オトガイ(あごの先端)がシャープになり、フェイスラインが美しくなる傾向があります。
また、術後の安定性なども考えると、必ずしも「抜かない矯正が良い矯正」とも言えないこともあります。
抜歯をしない治療を極力心がけますが、患者さんによってはとくに治療のクオリティに影響することがあるので、歯科医師とよく相談なさってください。

 ※参考書籍
 「nico 2013.5 クインテッセンス出版株式会社」
 「nico 2010.2 クインテッセンス出版株式会社」
 「nico 2008.2 クインテッセンス出版株式会社」
 「患者さんと家族のための歯科矯正治療 Q&A」
 一般社団法人 日本歯科矯正専門医学会(JSO)

Q32 矯正治療は歯の根っこが吸収すると聞いたのですが、どうなのでしょうか?
A32

矯正歯科治療にともなう歯根吸収は、ワイヤーのシークエンスやブラケットの種類によって影響を受けることはないものの、外傷の既往や歯根形態、大きな矯正力は歯根吸収のリスク要因になります。

治療に関連するリスク要因

  • 治療期間
  • 歯の移動距離
  • 矯正力の大きさ
  • 矯正力の種類(一定の力vs継続的な力、装置の種類、力の方向)

など

患者のリスク要因

  • 外傷の既往
  • 遺伝的要因
  • 薬剤(フェニトインなどの抗炎症薬)
  • ホルモン欠乏
  • 副甲状腺の機能低下
  • 歯槽骨の骨密度
  • 歯内治療の既往
  • 不正咬合の種類
  • 歯根形態
  • 全身疾患
  • アレルギー疾患
  • 喘息
  • 慢性アルコール中毒
  • 年齢
  • 性別

Weltman B, Vig KW, Fields HW, Shanker S, Kaizar EE.Root resorption associated with orthodontic tooth movement:a systematic review. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010 Apr;137(4):462-76.

Malmgren O, Goldson L, Hill C, Orwin A, Petrini L, Lundberg M. Root resorption after orthodontic treatment of traumatized teeth. Am J Orthod. 1982 Dec;82(6):487-91.

「歯根吸収は主に上顎前歯で起こり、平均1.4mmを超えることが示された。最大の歯根吸収は、上顎側切歯および歯根形態異常(ピペット状、尖っている、分裂している)のある歯に認められた。成人の患者は、小児の患者よりも下顎前歯部における歯根吸収の量が有意に多いことがわかった。」

Sameshima GT, Sinclair PM. Am J Orthod Dentofacial Orthop 2001; 1 19(5):505-510.

「臨床研究での発生率はさまざまである。矯正歯科治療後の歯根吸収の多くは、歯の寿命や機能低下に関係しない。歯根吸収の研究の多くは、その病因と予測可能性を明らかにしようとするものであるが、いまだ不明な点が多い。個々の感受性、遺伝的素因、矯正歯科治療に関連する全身因子、局所因子、解剖学的因子は多くの文献で引用されている。歯根吸収に関して多くの研究があるものの、それぞれ異なる方法で行われているために結果と結論を比較することができない。」

Brezniak N, Wasserstein A. Am J Orthod Dentofacial Orthop 1993; 103(1):62-66.

※参考書籍
 「矯正歯科のための重要16キーワードベスト320論文」
 監修 小野 卓史/小海 暁  クインテッセンス出版株式会社

Q33 歯の矯正をしようと思って歯科医院に行ったらCTを撮られました。なぜでしょうか?
A33

矯正歯科治療における3D画像解析は、初診時の診断や、成長や治療による変化および安全性を評価するための重ね合わせに応用できる。三次元CBCT画像は、歯根の傾きおよびトルク、埋伏および過剰歯の位置、歯科矯正用アンカースクリューの埋入部位の骨の厚さおよび形態、手術計画における骨切除部位を示すことができる。歯根吸収や過形成、変位、下顎頭の形態異常、左右の形態の違いなどの所見は、診断におけるCTの有用性をいっそう高めるものである。さらに軟組織と気道の関係も、三次元的に評価することが可能である。」

Cevidanes LH, Styner MA, Proffit WR. Am J Orthod Dentofacial Orthop 2006; 129(5):611-618.

※参考書籍
 「矯正歯科のための重要16キーワードベスト320論文」
 監修 小野 卓史/小海 暁  クインテッセンス出版株式会社

Q34 矯正治療中ですが、入院直後に妊娠が判明しました。どうしたらいいですか?
A34

矯正治療中の妊娠、出産は起こりうる事項であり、患者さんの人生にとって矯正治療以上に重要なことです。

妊娠初期および後期の体調の変化により通院が困難になることがあり、その対応、出産後の通院再開時期について患者さんに説明します。また、口腔衛生状態が悪化することもあるため、十分に気をつける必要があります。

治療期間が延長しても、妊娠・出産にともなう重篤な問題が発生しなければ、対応できます。

 

※参考書籍
 「これで解決!矯正トラブル」
 編著 末石 研二、野嶋 邦彦、片田 英憲
 クインテッセンス出版株式会社

Q35 矯正治療中に向精神薬を服用したら、噛み合わせに変化が生じていると言われました。どうしたらいいですか?
A35

筋弛緩作用のある向精神薬を服用すると、舌の筋弛緩により新たな舌癖や低位舌などの機能異常が起こることがあります。その結果、歯列に加わる舌圧などに変化が生じ、歯列弓形態に変化をもたらすため、服用量が多いときに矯正治療を行ったとしても、噛み合わせを安定させることが難しくなる可能性があります。そのため、筋弛緩作用がある薬を常用する場合には、当該の専門医へ対診し、矯正治療の可否の判断と、薬の服用量の減少を確認した後に矯正治療を行う必要があります。また、治療終了後においても舌癖は残存することから、不均一は舌圧が加わったとしても歯列形態の変化が起きないように、固定式および可撤式リテーナーを用いて保定を強化することが重要です。

 

※参考書籍
 「これで解決!矯正トラブル」
 編著 末石 研二、野嶋 邦彦、片田 英憲
 クインテッセンス出版株式会社

Q36 マウスピース矯正装置のインビザラインはどんな症例に適していますか?
A36

「インビザラインの強みは、空隙閉鎖や前歯部の捻転改善、辺縁隆線の配列を行う能力だった。」

Djeu G, Shelton C, Maganzini A. Am J Orthod Dentofacial Orthop 2005; 128(3):292-298.

※参考書籍
 「矯正歯科のための重要16キーワードベスト320論文」
 監修 小野 卓史/小海 暁  クインテッセンス出版株式会社

Q37 矯正治療後、多数歯に脱灰が認められると言われました。どうしたらいいですか?
A37

一般的な矯正治療でむし歯予防の対策を行っても改善が見られない場合、治療を中断して固定式装置(マルチブラケット)の撤去も考えられますが、抜歯治療の場合は空隙の閉鎖は最低限完了する必要があります。また、治療期間の短縮のため、歯の移動への反作用を考慮したうえ、治療メカニクスの変更も検討します。装置の清掃性への判断も重要です。その際、治療ゴールは妥協的にならざるを得ないことも患者さんおよび保護者には十分説明します。

 

※参考書籍
 「これで解決!矯正トラブル」
 編著 末石 研二、野嶋 邦彦、片田 英憲
 クインテッセンス出版株式会社

Q38 矯正治療により上顎前歯に歯根吸収が認められると言われました。どうしたらいいですか?
A38

ある論文で、「歯根吸収の程度は4段階に区分される」という報告*)があります。

その分類に従って、本格矯正治療を行った動的治療の終了患者737名の上顎前歯部について、パノラマエックス線およびデンタルエックス線写真をもとに調査が行われました。

その結果、2mm以下の吸収を認めた割合が12.3%、歯根長の1/3以下の吸収を認めた割合が5.6%、1/3以上の吸収を認めた割合が1.4%だったということです。

治療開始前に、矯正治療には歯根吸収のリスクがともなうことを把握しておく必要があります。治療中、エックス線写真撮影により吸収を認めた場合は、治療メカニクスの変更や中断も検討しなければなりません。患者さんは自覚症状を感じることが少なく、他院でエックス線写真撮影を行った際に、指摘されることもあります。吸収を認めた際には、患者さん(保護者含む)に予知性や予後について十分に説明します。

*) Malmgren 0, Goldson L, Hill C, Orwin A, Petrini L, Lundberg M. Root resorption after orthodontic treatment of traumatized teeth. Am J Orthod 1982; 82 (6): 487 -491.

 

※参考書籍
 「これで解決!矯正トラブル」
 編著 末石 研二、野嶋 邦彦、片田 英憲
 クインテッセンス出版株式会社

Q39 歯周病で歯が動いてしまい歯並びが悪くなって気になっています。こんな私でも矯正治療はできますか?
A39

矯正治療では歯周靭帯や骨が健康でなければなりません。
なぜなら、歯周組織に炎症などの病的状態がある場合は、歯周靭帯や骨の新生が期待できないからです。まずはその歯の歯周組織を精査し疾患(歯周病変や根尖病巣など)がある場合にはそれらを治療しましょう。

歯周病の治療をしっかりと受けて炎症のコントロールができているかたなら多くの場合、矯正治療は可能です。ただし、健康なお口の治療とくらべて特別な配慮が必要です。


矯正装置を装着して歯みがきがむずかしくなる前に歯周病もむし歯もしっかり治療しておきましょう!

※参考書籍
 「nico 2010.2 クインテッセンス出版株式会社」
 「矯正歯科の基礎知識」  飯塚 哲夫 著  愛育社

Q40 矯正治療中に急に前歯の色が変わってきました。大丈夫ですか?
A40

そのような状況では、歯髄壊死が考えられます。歯髄壊死の原因は、傾斜移動などによって歯槽骨の範囲から歯根が出てしまった場合や、外傷歯、矯正の力が強い場合などが一般的に挙げられます。矯正治療中の歯髄壊死は予測できないことが多いため、完全に予防することは難しいです。

 

※参考書籍
 「これで解決!矯正トラブル」
 編著 末石 研二、野嶋 邦彦、片田 英憲
 クインテッセンス出版株式会社

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