歯・お口の状態について
Q301 | 歯に原因はないのに歯に痛みが出ることってあるの? |
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A301 | そのような痛みのことを「非歯原性疼痛」といいます。 痛みの特徴としては、下記が挙げられます。 1.(原因が見当たらないのに)自発痛が多数歯に及ぶ 2.痛みを説明できる歯科的原因が、局所に見当たらない 3.刺激的、灼熱的、非拍動性の歯痛(炎症性の痛みと異なる) 4.一定不変で間断のない歯痛(痛みに波がない) 5.継続的で再発性の歯痛 6.(痛みを感じている部位に)麻酔をしても痛みに変化がない(診断的局所麻酔) 7.理にかなった歯科治療を行っても、痛みに変化がない
口腔顔面痛の最新ガイドライン 改定第4版. クインテッセンス出版, 東京, 2009.
いわゆる炎症性の痛みとは異なる状態が存在する場合、非歯原性の痛みである可能性があります。 非歯原性疼痛は様々な要因によって引き起こされ、次のようなものがあります。 1.三叉神経痛たとえば歯のブラッシングや食事あるいは顔を触った際のような、無害な刺激な後に引き起こされます。その痛みは突然発症し、鋭く撃つような電撃的な痛みで数秒で終わります。脳内の動脈や静脈による三叉神経の圧迫が原因ではないかと考えられています。 2.前三叉神経痛顔面や歯にぼんやりした深い鈍痛を持続的だったり間欠的に感じる痛みのことです。三叉神経痛に移行することがあるため、“前三叉神経痛”と呼ばれています。 3.非定型歯痛(幻歯痛)痛みは歯に入っている末梢神経ではじまりますが、中枢性の神経系の一部に変化をもたらし、歯痛を感じるように進行してしまいます。 4.慢性(複合性)局所疼痛症候群慢性局所疼痛症候群(CRPS)は、末梢神経のダメージによって発症し、神経系の末梢および中枢部分を変化させ、非定型歯痛にみられるものと似ています。非定型歯痛との違いは、交感神経系が関わっていることです。交感神経系は神経系の一部であり、いろいろな働きがありますが、その部位の血管が狭くなっているのが原因です。痛みは、「焼けるような」と表現され、軽い接触や他の刺激が引き金となります。CRPSは腕や脚に頻繁に発症しますが、顔面にも起こることがあります。 5.神経血管痛(頭痛の関連痛)偏頭痛、群発性頭痛、連続性片頭痛は脳の神経および血管の変化に由来するタイプの頭痛です。あるケースでは、三叉神経からの関連痛により、これらの頭痛が歯のなかに感じ歯痛となることもあります。痛みは持続的、激痛、拍動性、また緩和される時期もあります。 6.心臓由来の歯痛狭心症や急性心筋梗塞といった心疾患では、関連痛が肩や腕または顎にさえ現れることがあります。また関連痛は歯にも表れることがあります。胸の痛みと関連していることもあります。歯痛が心臓由来である場合には、運動によって疼痛は増加し、投薬(たとえばニトログリセリン錠とか)により痛みは減少します。 7.上顎洞/鼻由来の歯痛上顎洞粘膜や副鼻粘膜の問題が、上顎の歯に関連痛を引き起こすことがあります。上顎の数本の歯に鈍く持続性や拍動性の痛みを感じます。また目の下の部分に圧を伴うことがあり、頭を下に下げたり、咳や鼻をすすることで上顎洞に圧が加わると痛みが増してきます。冷水反応や咬合、打診反応のような歯の検査で、上顎洞由来の痛みは強くなってきます。 8.頸部における新生物あるいは他の病変腫瘍は歯の神経の近くの部位にも現れることもあり、それにより歯が緩く感じたり、動いたり感じる原因になります。 9.唾液腺機能不全唾液腺からの関連痛で歯の痛みを感じることがあります。また歯および周囲組織の健康を損ねることによって、唾液の欠如が起き、歯痛を引き起こすこともあります。 10.心理的な障害心理学的障害は歯痛の原因ではなく、増幅因子と考えられています。 ※参考書籍 |
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Q302 | 知覚過敏を治すために、自分でもできることがなにかあったら教えてください。 |
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A302 | まずは、生活のなかに隠れている知覚過敏のリスクを見つけてスメア層や再石灰化層を取り戻すことをはじめましょう。軽い知覚過敏なら、習慣や癖を改善したり、必要な対策を打つだけで自然に治る場合も多いです。 ご自身でもできる知覚過敏のリスクチェックをご紹介しますので、チェックしてみましょう。 1.歯ぎしり・食いしばりしていませんか?過剰な力は歯のヒビ、欠け、咬耗、詰め物や被せ物の傷みの原因に。自分では気づかない癖なので、お口にその痕跡がないか歯科医院で診てもらいましょう。就寝中につけるマウスガードもおすすめ。 2.ゴシゴシみがきはやめましょうゴシゴシ強くみがきすぎて、歯を摩耗させたり、歯ぐきを痩せさせていませんか?「どの程度の力でみがくとよいのかな?」と思われる方は、歯科医院で歯みがきの指導を受けましょう。 3.歯みがき不足も大きなリスクじつは「歯みがき不足」も知覚過敏のリスク。歯にベッタリつく歯垢のなかにむし歯菌の出した酸が溜まり、スメア層や再石灰化を溶かしてしまうのです。やさしくていねいに歯みがきしましょう。 4.すっぱい物の摂りすぎにご注意を!健康のため積極的に柑橘類を食べ、酢や酢の物を摂るかたが増えています。酸味はからだにはよくても歯には悪いことも多いので、ご自分に合った食べ方を歯科医院で相談してみましょう。 5.熱中症予防になに飲んでますか?暑い季節の熱中症予防に毎日イオン飲料を飲んでいるかたが多いと思います。イオン飲料は意外と酸性度が高く、チビチビ飲むたび歯が溶けます。ふだんはなるべく水やお茶にしましょう。 6.水泳やジムではいつもスポーツ飲料?スポーツ時はこまめな水分補給を。しかしスポーツ飲料やビタミン飲料ばかりチビチビ飲むと歯が溶けやすく、そうした歯を食いしばったりゴシゴシみがきすると歯がすり減りやすいです。 7.ヤニとり歯みがき使ってませんか?ヤニ取り歯みがきは研磨力が強く、ステイン除去機能の高い歯みがき剤も、研磨剤がたくさん入っているものがあるので避けた方が無難。歯磨き剤選びに迷ったら、歯科医院で相談しましょう。 8.お口のなかパサついてませんか?持病の薬を飲んでいるかたに多いお口のパサつき。薬の副作用で唾液の分泌が減ると、歯の再石灰化とスメア層の形成がスムーズに進みません。また、体調が悪いときも知覚過敏になりやすいです。 9.栄養管理をしっかりしましょう。
※参考書籍 「歯科でできる実践栄養指導」 |
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Q303 | 親知らず(智歯)を抜歯するのにCT撮影は必要ですか? |
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A303 | 「下顎埋伏第三大臼歯抜歯における神経血管束曝露の予測におけるコーンビームCTとパノラマX線画像の診断精度を評価した。結果、下顎管曝露を予測する際に、感度と特異度は、それぞれコーンビームCTで93%と77%、パノラマX線画像で70%と63%であった。」 下顎管と埋伏第三大臼歯との位置関係の評価におけるコーンビームCTと通常のパノラマX線写真との比較研究 ※参考書籍 |
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Q304 | 「筋肉が硬くなる」とはどんな状態をいいますか? |
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A304 |
一つは器質的な変化で、実際に筋肉を触ってみると硬く感じられるものです。これは「凝り(硬結)」といわれ、筋肉を過負荷で長時間使って疲労がたまると生じます。その作用機構はまだ十分に解明されていませんが、組織損傷に伴う局所的硬縮や神経の機能不全、それに加えて深部組織における浮腫の可能性が高いといわれています。 もう一つは機能的な変化で、関節可動域が狭くなったり、筋収縮のスピードが低下したりします。これは筋に共縮のクセがついて、十分な筋の弛緩が得られないときに起こります。
※参考書籍 |
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Q305 | 歯牙破折の診査はどのように行いますか? |
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A305 | 破折を確かめるステップとして、以下のものがあります。 1. 歯科的既往 2. 問診 3. 視診 4. 触診 5. 根尖部歯周組織の検査 6. 咬合圧検査 7. 歯髄生活性検査 8. ポケット検査 9. エックス線検査 10. 修復物の除去 11. 染色 12. 透過光検査 13. 楔力検査 この検査は、クラックが特定された後、追加的に行う検査である。目的としては、分離できる可能性がある歯片の存在を発見することである。患者には、この検査中にクラック音が聞こえるかもしれないこと、痛みを感じるかもしれないことを事前に知らせておく必要がある。 14. バンディング検査 咬合時に限定した疼痛を訴える歯に、きつめの矯正用バンドを巻いてセメント合着し、症状の変化を確認する。 15. 診断的外科処置 ※参考書籍 |
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Q306 | なぜ歯周病はからだに悪いのですか? |
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A306 | 歯周病を放置している患者さんの歯周ポケットは、歯周病菌の培養工場であり増殖した歯周病菌の貯蔵庫になっています。腫れて破れた歯周ポケットの上皮からは血清成分や血液が行き来しますが、貯蔵庫にいる細菌の出す毒素や細菌そのものも血液の流れに乗って絶えず体内へと流れ込み、悪さをします。ただれた上皮をトータルするとなんと手のひらサイズの面積になります。この大きな潰瘍から、毒素や細菌、炎症物質が常時体内へと流れていきます。 |
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Q307 | 歯が原因で歯性上顎洞炎と言われましたが本当ですか? |
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A307 | 上顎洞炎の10~12%が歯性上顎洞炎であると言われてきましたが、コーンビームCT(CBCT)による診断が可能となった現在、その発生頻度は以下の報告のように高くなってきています。 ・慢性上顎洞炎の感染原因は40%以上が歯に起因する(Patel) ・上顎洞炎を有する患者の上顎小、大臼歯部をCBCTにより診査した結果、50%以上に根尖病変が認められた(Maillet) ・上顎洞炎と診断された52人の患者のうち、55.7%は根尖が上顎洞内に突出しており、それらの79.3%は上顎洞粘膜が2mm以上肥厚していた(Yildirim) 歯性上顎洞炎の原因を報告した論文は少なく、インプラントが原因の歯性上顎洞炎が37.0%、抜歯によるものが29.6%、根尖病変に起因するものが11.1%であった(Lee)という報告があります。 副鼻腔の炎症は、鼻閉、鼻漏、後鼻漏といった鼻症状に加え頭痛、頬部痛、顔面圧迫痛を伴うもので、患者さんのQOLに大きくかかわる疾患です。 歯性上顎洞炎の経過には急性と慢性がありますが、急性期には片側性の頬部痛や鼻閉を伴うことが多く、鼻症状の前に歯痛をきたすこともあり、歯髄炎と誤って抜髄することのないよう注意が必要です。 ※参考書籍 |
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Q308 | 歯が痛いのですが原因がわからないといわれ、歯科医院にいっても治りません。どういうことでしょうか? |
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A308 |
歯の痛みには、歯原性歯痛と非歯原性歯痛があります。 歯原性歯痛歯や歯周組織に生じた器質障害や炎症により、当該部位あるいはその関連部位に自覚される歯痛のこと 非歯原性歯痛歯や歯周組織以外に生じた痛みを、関連痛の一つとして歯や歯周組織に自覚される歯痛のこと
注意してほしいことは、非歯原性歯痛は主な原因が歯にないということであり、歯に問題がないということではないということです。 例えば、顔面痛で経過が長い場合は、しばしば知覚神経に可塑化を引き起こし、三叉神経痛様や帯状疱疹後神経痛様など、さまざまな痛みに姿を変えます。そこで、歯に何らかの問題があると、その歯を標的に顔面痛が非歯原性歯痛として現れ、歯痛化すると考えられています。 よく診査をしてみないとはっきりとしたことは言えませんが、もしかしたら非歯原性歯痛の可能性も考えられます。 ※参考書籍 |
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Q309 | 噛み合わせ・噛みしめと姿勢は関係あるの? |
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A309 |
姿勢は人が筋力を発揮した結果であるため、姿勢を見ることにより適切に(機能的に)筋力が使われたかどうかを判定できます。 下の図を見てもらうとわかりやすいと思います。 ●例 消しゴムと鉛筆の位置関係(姿勢) 消しゴムの正中線に沿って正しく力を加えてやれば、消しゴムを直線的に押すことができます。もし、押す位置が不適切であれば、真直ぐに押すことができません。このように、消しゴムと鉛筆の位置関係(姿勢)により、力が無駄になったり役立ったりするのです。 これを口腔領域の問題としてみたとき、よくわかる例が前方頭位姿勢(forward head posture)です。 体軸から前方へズレた頭部の重さを支えるために、常に肩部や頸部の筋肉が過度の緊張を強いられることになります。このことにより、首や肩の凝りが発生し、噛み合わせなどにも影響が出ます。 また、噛みしめは関節を固定し、姿勢維持に貢献するものとして考えられています。実際、人の運動を観察してみますと、耐える動作や身体を固めて護る動作をする場合に噛みしめが見られます。
※参考書籍 |
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Q310 | 上の奥歯がすべて響いて痛いです。約2週間前に風邪をひいたころから、左側上顎臼歯部全体が響き、鈍痛があります。痛みはズキズキとしており、持続的に続いています。鼻閉、鼻漏、後鼻漏があります。前屈すると頭が重く感じ、階段を上がる際や歩くだけでも痛むときがあります。左側頬部圧痛もあります。食事時に違和感があり、全身倦怠感もあります。原因は何ですか? |
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A310 | このような場合、上顎悪性腫瘍、脳腫瘍、歯髄炎、う蝕、急性根尖性歯周炎、慢性辺縁性歯周炎急性化、非歯原性歯痛(筋・筋膜性歯痛)、非歯原性歯痛(上顎洞性歯痛)、突発性歯痛などが疑われます。 本症例では、
などの状態から、上顎臼歯部の上にある上顎洞炎に起因する「急性上顎洞炎による非歯原性歯痛」と思われます。
※参考書籍 |
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