歯・お口の状態について

Q311 就寝中、上の歯の激痛で目が覚めてしまいます。1か月前から毎日、就寝中に左側上顎大臼歯部の根の奥と眼の奥を中心に顔面頬部に激痛が走り、飛び起きる日が続いています。痛み止めを飲んで1時間ぐらいすると少しずつ治まってきます。一昨年も同じ季節に同じような痛みが生じて耳鼻科を受診しました。とくに異常はないと言われ、1か月くらい続いて治まりました。今回は歯が原因ではないかと思って、かかりつけ歯科医を受診しました。歯を抜いてしまいたいほどに痛いのですが、日中はほとんど痛くなく、食事は通常通りできます。原因は何ですか?
A311

このような場合、上顎洞癌、脳腫瘍、歯髄炎、上顎洞炎、群発頭痛、急性根尖性歯周炎、特発性歯痛などが疑われます。

本症例では、

  1. 毎年、同じ季節に再発する傾向がある
  2. 夜間、激痛で飛び起きる(のたうち回るような激痛という表現がしっくりくる)
  3. 日中にも生じることがある
  4. 痛みの範囲が一側性で、側頭部、顔面頬部、目の奥、歯の奥に感じられる
  5. 15分から180分続く激痛である
  6. 鼻づまり、鼻漏、眼瞼浮腫、前額部発汗などの自律神経症状を伴う
  7. 痛みが治まると、まったく症状がなくなる
  8. アルコール摂取を止めると疼痛が軽減、出現しない
  9. 1か月くらいで自然消退する

などの状態から、「群発頭痛」と思われます。群発頭痛の好発年齢は30歳代であり、男性に多いですが、女性にも生じます。

 

他の疼痛と群発頭痛の比較については、下記の表を参考にしてください。

 

不可逆性歯髄炎
(歯髄の虚血・壊死)

群発頭痛 三叉神経痛
痛みの性質 拍動性 えぐられる、突き刺される、焼ける 電気ショックのような、ズキンとするような、突き刺すような
、または鋭い
痛みの強度 さまざま 重度~極めて重度 激痛
痛みの頻度 刺激のたび 1回/2日~8回/日 繰り返す
持続時間 数分から数時間あるいは持続性 15~180分 数分の1秒から2秒間
誘発因子 温(熱)刺激 飲酒 トリガーゾーンの触刺激(非侵害刺激)
緩解因子 冷刺激 なし なし
関連症状

定位が悪い

関連痛

  1. 頭部自律神経症状
  2. 結膜充血または流涙(あるいはその両方)
  3. 鼻閉や鼻漏(あるいはその両方)
  4. 眼瞼浮腫
  5. 前額部および顔面の発汗
  6. 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)

顔面筋のチック

不応期がある

 

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q312 今まで一度も処置をしたことがなく、むし歯もないと言われましたが、歯が強く痛みます。原因は何ですか?
A312

もしかしたら歯髄炎かもしれません。

歯髄炎を引き起こす因子として、

  1. う蝕や象牙質あるいは歯髄が口腔内に露出することによって引き起こされる歯髄炎
  2. 外傷性因子によって引き起こされる歯髄炎
  3. 歯冠修復処置による象牙質への刺激などの医原性因子による歯髄炎

 

の3つが考えられます。

1.のう蝕(むし歯)はなく、また、治療もしたことがなく3.でもないということであれば、1.と3.は除外され、2.の外傷因子が疑われます。

最初に行うことは問診にて過去の外傷の既往を聞くことです。ただし、外傷はあくまでも歯髄炎を結果的に起こし得る因子にすぎません。

歯に外的な力が加わったことにより、歯冠あるいは歯根の一部または両方に破折が生じた結果、歯髄炎が惹起されるため、診査においては歯に破折線を確認する必要があります。

ただし、非歯原性(歯が原因でない)のものも考えられますので、早く歯科医院を受診してください。

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q313 根っこの処置が終わったのですが、痛みが続いています。原因は何ですか?
A313

次のような原因が考えられます。

  1. 根管内の軟化象牙質が確実に除去されていなかった
  2. 未発見(未処置)の根管が存在しているが、気づかなかった
  3. 歯牙破折・歯根破折
  4. 穿孔部の見落とし
  5. 根尖孔外の領域に感染源がある
  6. 非歯原性歯痛(歯が原因でない)の可能性

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q314 二次う蝕とは何ですか?
A314

治療したところが再度むし歯になってしまうことを二次う蝕といいます。(二次カリエスともいいます)
大人の場合、むし歯になるリスクがもっとも高いのが、その治療済みの歯なのです。
治療痕の多いお口に起こります。詰め物やかぶせ物は人工物なのでむし歯になりません。
でも油断すると隙間からその下の象牙質に酸が入り込んで新たなむし歯ができてしまうのです。
酸はミクロの隙間もスイスイと通り抜けてしまいます。
いくらピタリと詰め、かぶせてあっても、治療後の口内環境が改善されず、むし歯菌がいっぱいのままでは、酸から歯を守ってくれるエナメル質を失った歯は、むし歯菌の出す酸の影響をさらにこうむってしまいます。
外から見えにくいのでやっかいです。
また二次う蝕は、詰め物やかぶせ物の下の見えないところで進行するため、ご自分では気付きにくいのです。
まして、神経が取ってあったり、たまたま痛みが出なかったりすると、自覚症状がまったくないうちに進行してしまいます。
「治療が済んだから大丈夫」という油断は大敵です。
どんなに良い歯科治療を行ったとしても、一度むし歯になってしまったところは再びむし歯になりやすくなっているので、プラークコントロールをしっかりと行いながら、歯科医院での定期的なメンテナンスで二次う蝕発生のリスクを抑える必要があります。
 
 
※参考書籍 「nico 2010.5 クインテッセンス出版株式会社」

Q315 義歯の調整を何度も行っていますが、全く痛みが軽減しません。他にどんな原因が考えられますか?
A315
考えられる原因 特徴

三叉神経ニューロパチー(三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、脳腫瘍など)

  • 電撃痛
  • 義歯を外していても痛みは発症する
  • 義歯装着により痛みを誘発することもある
  • 咀嚼とは関連がないことが多い
咀嚼筋の筋・筋膜疼痛の関連通
  • 鈍痛
  • 咀嚼と関連する痛み
  • 歯に関連痛があることが多い
  • 筋触診により痛み誘発
粘膜疾患(口腔がん、白板症、紅板症、口腔カンジダ症、金属アレルギーに起因するものなど)
  • 義歯床下粘膜に異常
  • 刺激痛
  • 接触痛
  • 味覚障害
  • 金属アレルギーではパッチテスト陽性
口腔乾燥(口腔がん、服薬、加齢など)
  • 粘膜乾燥
  • 口臭
  • 義歯装着により痛み誘発
  • 目の乾燥
粘膜荷重増加(咬みしめ、TCHなど)
  • 鈍痛
  • 粘膜の圧痛
  • 粘膜発赤
  • TCHでは粘膜異常は観察されないこともある
心身医学的要因(義歯心身症、義歯ノイローゼなど)
  • さまざまな痛みの性状
  • 脈絡のない症状
  • 全身症状との関連を強く訴える
  • 多くの義歯を持参する

 

TCH:Tooth contacting habit、継続的な歯の接触

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q316 顎が痛くて、片側の歯が強く当たります。咬合調整で治りますか?
A316

可逆性と診断した場合には、顎関節症症状の消失にあたるとともに、咬合接触状態が元に戻るのを待つという対応をとります。筋痛が原因となっている場合は、開口ストレッチが有効です。

不可逆性と診断した場合には、顎関節症症状の治療期間中に咬合接触状態を観察し続け、顎関節症症状が消退後に偏位した下顎位がその位置で安定していること(来院ごとに同じ咬合接触状態であること)を3か月程度確認し、その位置で正常な咬合接触を与えるために、下顎の偏位量に応じて咬合調整あるいは咬合再構成を行って治療を終了します。

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q317 抜歯部の痛みがおさまりません。抜歯窩は治っているのに、何が原因ですか?
A317

可能性としては次の4つが考えられます。

1.悪性腫瘍(初めに除外すべき疾患)

癌腫(おもに扁平上皮癌、顎骨中心性癌)、造血器悪性腫瘍(おもに白血病、悪性リンパ腫)、肉腫(おもに骨肉腫)、多臓器がんの顎骨転移など

 

2.炎症(頻度の高い疾患であることが多い)

ドライソケット、残根・異物・嚢胞・良性腫瘍などの感染、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)、骨髄炎、上顎洞炎、巨細胞性動脈炎、易感染性の有無(糖尿病などの基礎疾患、ステロイド・抗がん剤・免疫抑制剤投与)

 

3.抜歯後神経障害性疼痛

2018年に公開された国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーに該当します。

 

4.非歯原性疼痛(ほぼ痛みだけの疾患)

筋・筋膜性疼痛(顎関節症:咀嚼筋痛障害)、片頭痛、群発頭痛、三叉神経痛、舌咽神経痛

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q318 口腔内、歯肉粘膜全般に痛みがあります。どのような疾患が考えられますか?
A318

口腔粘膜の痛みを伴う疾患は次のようなものがあります。

全身疾患に伴う口腔粘膜の疼痛

●内分泌疾患

甲状腺疾患、糖尿病

●栄養素欠乏

ビタミン(B2、B6、B12、ナイアシン、葉酸)欠乏、鉄欠乏、亜鉛欠乏

●自己免疫疾患

SLE、ベーチェット病、シェーグレン症候群

●アレルギー性疾患

食物・薬剤性アレルギー(即時型・遅延型)

●ウイルス感染症

HIV感染症

●常用薬の副作用

 

口腔症状が主症状の口腔粘膜疼痛

●歯肉炎
●口腔扁平苔癬
●口腔カンジダ症
●天疱瘡
●接触型アレルギー(歯科材料)
●急性壊死性潰瘍性歯肉炎
●アフタ性口内炎
●ウイルス感染症

単純疱疹、水痘帯状疱疹

●口腔乾燥症

生理的変化(加齢、閉経など)、環境の影響(口呼吸、ストレス、飲酒、喫煙)、病的変化(唾液腺疾患、放射線治療)

●バーニングマウス症候群(舌痛症)

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q319 風邪を引くと、上のすべての歯が浮いた感じになり、痛みが出ます。何が原因ですか?
A319

「上のすべての歯が浮いた感じ」という症状を生じる理由としては、上顎臼歯の根尖が上顎洞内に近接しており、炎症が直接的に根尖部に波及して歯根膜炎を生じるためと考えられています。また、歯痛は、副鼻腔の内圧亢進によって生じた痛みが関連痛として上顎の歯痛を生じたと想定されます。

急性鼻副鼻腔炎が原因の場合、歯痛が数日~1週間程度で急速に悪化することが多いです。急性鼻副鼻腔炎の典型的な症状は、鼻汁や後鼻漏、頬部圧痛、発熱などを伴います。

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

Q320 痛む場所が次々に移り、毎回痛いところが変わります。何が原因ですか?
A320

そのような場合は、特発性歯痛が疑われます。

特発性歯痛とは、「歯または抜歯した後の部位に、数か月から数年以上にわたり慢性持続性の耐え難い痛みが生じているが、臨床的にも画像上でも痛みに見合うだけの異常は認められない」という場合に、除外診断で診断される非歯原性歯痛です。痛みは覚醒している間中持続し、通常、打診痛は伴いません。

有病率は不明ですが、大学病院受診患者で1.7%1)という報告があります。

9割が女性で、40~50代に多いとされています2)。自験例では約9割が女性で、平均受診年齢は55歳でした。複数の医療機関を巡り、正しく診断されるまでに平均4~5年かかっています2)

特発性歯痛の特徴

1.疼痛の日内変動

痛みは起床後しばらく弱く、午後、とくに夕方から夜にかけて悪化します。

2.疼痛強度

通常中等度~強度で、患者さんが抜歯を希望するほどです。

3.疼痛改善因子

摂食時には痛みは改善または消失します。口の中に何かが入っているときには痛みは和らぐため、ガムや飴を常用している患者さんも多いです。

4.疼痛悪化因子

感情や環境因子によるストレスがかかると疼痛は悪化します。

5.発症の契機

7割が歯科治療が契機となって発症します3)

6.精神疾患との関連

3~4割にうつ病や不安症の既往があります4)

 

特発性歯痛と通常の歯痛との鑑別法(参考文献5)を引用改変)

特発性歯痛 歯原性歯痛
疼痛は一定で、数か月~数年以上も変化がない 疼痛には変動があり、時間とともに増悪または改善する
局所刺激は、疼痛にほとんど影響を与えない 局所刺激(温度、圧)により、疼痛は悪化する
臨床的にも画像上でも器質的な異常は認められない 臨床的または画像的に異常(歯質欠損、破折)が認められる
歯科治療を繰り返しても疼痛は改善しない 歯科治療により疼痛は改善する
局所麻酔に対する反応は不明瞭 局所麻酔で疼痛は消失する

 

*特発性歯痛で抜歯が行われる場合、主治医の多くは歯根破折を疑っています。歯原性であれば局所麻酔で疼痛は消失するため、観月には歯根膜駐車を行って確認することが有効です。

 

治療について

中枢性の痛みであるため、三環系抗うつ薬やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)による薬物療法と、痛みから注意をそらせる認知行動療法を併用することで改善が得られることが多いです。歯科治療は無効であるばかりか、繰り返すとむしろ悪化する傾向があります6)

 

1)Wirz S, Ellerkmann RK, Buecheler M, et al.: Management of chronic orofacial pain: a survey of general dentists in german university hospitals. Pain Med. 11 (3): 416-424.

2)Ikawa M: Effectiveness of antidepressants for treatment of idiopathic orofacial pain, The Journal of Headache and Pain, 2013.

3)Ikawa M, Yamada K, Ikeuchi S: Efficacy of amitriptyline for treatment of somatoform pain disorder in the orofacial region: A case series. J Orofac Pain. 20 (3): 234-240, 2006.

4)Taiminena T, Kuusaloa L, Lehtinena L: Psychiatric (axis Ⅰ) and personality (axis Ⅱ) disorders in patients with burning mouth syndrome or atypical facial pain, Scandinavian Journal of Pain 2, 155-160, 2011.

5)Melis M, Secci S: Diagnosis and treatment of atypical odontalgia: a review of the literature and two case reports. J Contemp Dent Pract.; 8 (3): 81-89, 2007.

6)井川雅子, 山田和男: 口腔顔面部の特発性疼痛疾患 口腔内灼熱症候群と持続性特発性顔面痛. 日本頭痛学会誌, 46 (1), 70-79, 2019.

 

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