他疾病

Q41 周術期に口腔機能管理を行うメリットはありますか?また、どんなことをするのですか?
A41

周術期等口腔機能管理のメリット

  1. 頭頚部がんの術後感染による合併症の減少
  2. 肺がんや食道がんの術後肺炎の減少
  3. 術後の経口摂取の開始を早める
  4. 術後在院日数の削減効果
  5. 気管内挿管時のリスク軽減(歯の破折、脱落など)

 

これらは患者、病院側双方にとって有用性が高いものとなっています。

 

周術期等口腔機能管理の内容

  1. がん治療における口腔健康管理の必要性についての説明
  2. 口腔内診査、歯周基本検査
  3. セルフケア方法の説明と指導
  4. 歯石除去、機械的歯面清掃
  5. う蝕、歯周病、義歯などに関する可及的治療

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q42 抗がん剤を飲むようになって最近口腔粘膜炎ができるようになったのですが、どうしたらいいでしょう?
A42

口腔粘膜炎を起こしやすい抗がん剤には、細胞傷害性薬分子標的薬があります。

細胞傷害性薬

代謝拮抗薬

フルオロウラシル(5FU)

メトトレキサート

抗腫瘍性

抗生物質

ドキソルビシン

ダウノルビシン
微小管阻害薬

パクリタキセル

ドセタキセル

 

分子標的薬

mTOR阻害薬

エベロリムス

テムシロリムス

 

 

口腔粘膜炎への考え方としては、栄養の管理、感染の防止、疼痛のコントロールの3要素が欠かせません。

1.栄養の管理

栄養の管理については、次の5つに注意しましょう。

  1. 十分なカロリー摂取と栄養バランス
  2. 食事内容や調理方法の工夫
  3. 十分な水分摂取
  4. 輸液や人工的な栄養補給も考慮
  5. 精神状態

 

2.口腔内の保清・保温

感染の防止については、口腔内の保清・保温に注意します。

口腔内の保清
  1. セルフケアが基本
  2. がん治療開始前の周術期等口腔機能管理
  3. 口腔清掃状態、口腔粘膜の状態、唾液量と性状、舌苔と口臭、歯や義歯の状態
  4. 含嗽・ブラッシング、歯石除去・PMTC

 

口腔内の保温
  1. スプレー等で頻回に少量の水分を口に含む
  2. アイスボールをなめる
  3. 保湿剤の使用(液状やジェル状、味、価格、好み)
  4. 過度含嗽は逆効果

 

※色々な方法を組み合わせて行ってみることが大切です。

 

3.疼痛のコントロール

疼痛のコントロールには5つの方法があります。

1)冷却法
  • アイスボール

 

2)局所麻酔薬
  • 生食水+4%キシロカイン®
  • キシロカイン®ビスカス

 

3)NSAIDs
  • シロップ、錠剤

 

4)オピオイド
  • モルヒネ、オキシコドン塩酸塩
  • フェンタニルクエン酸塩

 

5)口腔粘膜保護材
  • エピシル®口腔用液

 

口腔粘膜炎の予防は困難であり、症状の重篤化を防ぐことが大切です。

口腔健康管理(口腔内保清、口腔内保湿、疼痛緩和)を行うことによって二次感染を防止します。

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q43 今がんの治療中なのですが、上顎にいつからか擦ってもとれない白斑状の出来物が出来てるのに気づいたのですが何ですか?どうしたらいいのでしょう?
A43

真菌(Candida albicans)の感染と思われます。

口腔カンジダ症の感染

感染には全身的リスク因子局所的リスク因子があります。

全身的リスク因子

1.易感染性宿主(免疫不全状態)

2.日和見感染症

  • がん、AIDS、高齢者など
  • ステロイド剤など

 

3.菌交代現象

  • 抗菌剤の長期投与

 

局所的リスク因子
  1. 口腔粘膜の損傷
  2. 口腔環境の悪化

 

  • 口腔乾燥症
  • 義歯の使用(粘膜に傷がつき、付着しやすくなる)
  • 口腔清掃状態の悪化(悪化しやすくなる)

 

口腔カンジダ症の臨床的分類

疾患 症状 好発部位 特徴
偽膜性口腔カンジダ症

灰白色、苔状

擦ると剥離する
口腔粘膜全体

急性

鷲口瘡ともいう
肥厚性口腔カンジダ症

肥厚した白斑

擦っても剥離しない
頬粘膜、舌、口蓋

慢性

白板症との鑑別が必要
紅斑性(萎縮性)口腔カンジダ症

紅斑、びらん

灼熱感、疼痛

口角炎を伴う
口蓋、舌、口角、歯肉 義歯性口内炎

 

口腔カンジダ症の診断

臨床診断
  1. 全身的、局所的リスク因子を有する
  2. 特有の自覚症状、他覚所見を有する
    (白斑、発赤、びらん、疼痛、味覚障害など)

 

確定診断
  1. 培養による真菌学的検査
  2. 塗抹標本の鏡検による診断
    (カンジダの仮性菌糸などの証明)

 

※全身的、局所的リスク因子があり、特有の自覚症状と他感的所見があれば、培養や鏡検による確定診断は必ずしも必要でなく、臨床診断により治療を行います。

 

抗真菌薬

アムホテリシンB(ファンギゾン®シロップ)、ミコナゾールゲル(フロリード®ゲル)
  • 菌体に直接作用
  • 非吸収性
  • 使用が頻回
  • 使用量が大量

 

イトラコナゾール(イトリゾール®) カプセル、内用液、注射用
  • 菌体に直接作用(内用液)
  • 吸収性
  • 使用方法が容易(内用液:1日1回、20ml)
  • 軟便、下痢、悪心

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q44 今、がん治療中ですが、極度の口腔乾燥に悩んでいます。どうしたらいいでしょう?
A44

特にがん患者には重篤なものが多いです。理由として、以下の4つがあります。

1.唾液分泌量の減少

  • 抗がん剤や放射線による唾液腺の傷害
  • 薬剤の副作用
  • 咀嚼運動の減少
  • 交感神経優位(緊張・ストレス)

 

2.唾液粘稠度の増加

  • 漿液性細胞が早期に傷害されやすい
  • 交感神経優位(緊張・ストレス)

 

3.唾液蒸発量の増加

  • 口呼吸
  • 開口状態の増加
  • 酸素吸入

 

4.脱水

  • dry sideの維持管理
  • 水分摂取の不足
  • 血管外への体液の移行(ネフローゼ等)
  • 体液の喪失(嘔吐・下痢等)

 

口腔乾燥症への考え方・対策

1.唾液量を増やす(原因療法)

①唾液分泌抑制の原因を除去する

②唾液分泌促進薬の使用

③よく噛んで食べる

④唾液腺をマッサージする

⑤すっぱいものを食べる

⑥10%キシリトール水のスプレー

2.蒸発量を減らす(原因療法)

①マスクの着用

②水で湿らせたガーゼを口にあてる

3.口腔内の保湿(対症療法)

①保湿方法

  • スプレー等で頻回に少量の水分を口に含む
  • アイスボールをゆっくりなめる
  • 保湿剤の使用
  • 過度の含嗽は逆効果

 

※1つの方法だけを漫然と続けるのではなく、色々な方法を行ってみましょう。

 

②保湿剤

  • 保湿剤(ジェルタイプ、洗口液タイプ、スプレータイプ)
  • 人工唾液
  • レモン水
  • 10%キシリトール水

 

※保湿剤の選択方法

目的 症状 保湿剤
水分を付加する
  • 乾く
  • ねばねばする
  • 洗口液タイプ
  • スプレータイプ
清涼感を与える
  • 気持ちが悪い
  • ねばねばする
  • 洗口液タイプ
  • スプレータイプ
口腔粘膜を保護する
  • 舌が痛い
  • ざらざらする
  • ジェルタイプ

 

 

4.疼痛のコントロール

約70%に表在性疼痛があります。

①保湿

  • 水による口腔内の湿潤
  • 保湿剤

 

②局所麻酔薬

  • 生食水+4%キシロカイン®(10~30ml)
  • キシロカイン®ビスカス

 

③NSAIDs

  • シロップ
  • 錠剤

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q45 がん治療をはじめてから味があまり感じられず食事がおいしくありません。原因、対策を教えてください。
A45

味覚障害の可能性が考えられます。味覚障害にはどのようなものがあるのか、そして原因と対策についてご紹介します。

味覚障害の分類

1.味覚減退

味の感じ方が鈍くなる

2.味覚消失

味が全くわからない

3.自発性異常味覚

味覚刺激がなくても嫌な味がする

4.解離性味覚障害

特定の味だけがわからない

5.異味症

本来の味と異なる味がする

6.悪味症

どの味も嫌な味に感じる

 

味覚障害の原因と対策

原因
  • 味蕾の減少、感受性の低下
  • 舌神経、舌咽神経への傷害
  • 口腔乾燥症
  • 口腔粘膜炎
  • 口腔カンジダ症
  • 舌苔
  • 亜鉛欠乏型
  • 心因性

 

対策
  • 食事の味付けの工夫(濃い、薄い、好みの味)
  • 唾液量を増やす、保湿
  • 保清、保湿
  • 抗真菌薬の投与
  • 舌苔除去
  • 亜鉛の投与
  • 精神的サポート、食事環境の配慮

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q46 がん治療をはじめてから口臭が気になるようになりました。どうしたらいいですか?
A46

口臭の原因と対策には次のようなものがあります。

原因

口腔清掃不良、唾液分泌の減少、歯周病などにより、揮発性硫黄化合物が発生します。

揮発性硫黄化合物

含有成分により、様々な臭いが発生します。

  • 硫化水素(卵が腐った臭い)
  • メリルメルカプタン(野菜が腐った臭い)
  • ジメチルサルファイド(ごみ臭)

 

対策

口腔清掃

舌苔除去、ブラッシング、歯石除去

含嗽

口臭予防洗口剤、含嗽剤

保湿

保湿剤

 

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q47 今がんに対し化学療法を行っています。歯科治療に対し、何か気をつけることはありますか?
A47

白血球数(好中球数)と血小板数に基準があります。

  • 白血球数 2,000/μL(好中球数 1,000/μL)
  • 血小板数 50,000/μL

上記の数値を下回る場合は、観血的歯科治療は避けるようにしましょう。検査値など、状況を歯科医師にしっかりと説明して下さい。

※参考
 「歯科医療の原点と将来を見据えて DVD」より
 【開業医にもできるがん患者の口腔健康管理 杉政和先生】

Q48 がんに対する放射線治療を予定しています。口腔内に影響するとのことで歯科受診をすすめられましたが、どう影響するんですか?
A48

放射線性顎骨壊死(ORN:osteoradionecrosis of the jaw)の発症リスクは根尖病巣、重度歯周病、放射線治療後の抜歯、下顎臼歯などであることから(*)、これらのリスク因子に相当する歯は照射前に抜歯することが推奨されます。

*Kojima Y, Yanamoto S, Umeda M, Kawashita Y, Saito I, Hasegawa T, Komori T, Ueda N, Kirita T, Yamada SI, Kurita H, Senga Y, Shibuya Y, Iwai H. Relationship between dental status and development of osteoradionecrosis of the jaw: a multicenter retrospective study. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol 2017; 124(2): 139-145.

※参考書籍
 「周術期等口腔機能管理の実際がよくわかる本」
 編著 梅田正博/五月女さき子  クインテッセンス出版株式会社

Q49 放射線治療を行った後、口腔内に粘膜に炎症が起こっています。早く治すにはどうしたらよいでしょうか?
A49

薬剤以外の放射線性口腔粘膜炎の治療法は次のようなものがあります。

  1. 口腔ケア
  2. 人口唾液や水溶性のゼリー、口腔乾燥症用のガムやトローチ
  3. 生食や重曹による含嗽
  4. 十分な水分摂取(1日3L)と禁酒
  5. 食事の注意(柑橘類、トマト、酸性の食物、熱い食物は粘膜炎を悪化させる)
  6. 禁煙
  7. 氷片をなめる

 

いくつかの対策を重ねることにより、粘膜炎の重症化を抑制できる可能性があります。

※参考書籍
 「周術期等口腔機能管理の実際がよくわかる本」
 編著 梅田正博/五月女さき子  クインテッセンス出版株式会社

Q50 口腔がんについて知りたいので教えてください。
A50

口腔粘膜は組織学的に扁平上皮であることから、口腔がんの約90%は扁平上皮癌です。そのほかに唾液腺がん、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、肉腫、転移性がんなどが発生します。

口腔は直接見て触れることができるため、比較的容易に異常を発見しやすい部位ではありますが、口腔がんの早期発見は必ずしも満足のいく結果が得られているとはいえません。

その理由として、口腔がんは病変が進行するまでの自覚症状に乏しいことがあり、また、日常の臨床でよく遭遇する歯周病や口内炎などとの鑑別が困難なことが多いためです。

よって、歯周病と診断されスケーリングや抜歯が行われたり、口内炎と診断されレーザー治療やステロイド軟膏の長期投与が行われたのち、がんが進行した状態で発見されるケースも少なくありません。

口腔がんおよび口腔粘膜疾患は、粘膜上皮あるいは粘膜固有層の病的変化によって、色調および形態は変化し、さまざまな臨床所見を呈します。

早期口腔がんの臨床所見は、粘膜の白色変化や紅色変化が主体となり、進行に伴い肉眼的にびらん、潰瘍、肉芽、白斑、乳頭、腫瘤など、さまざまな病態を呈します。

鷲津邦雄、鈴木邦夫、口腔粘膜がんの早期診断について ―とくに臨床像を中心として―、日歯評論1973;372:13-22.

Symptom Differentiation and Approaches for Oral Precancerous Lesions (Oral Potentially Malignant Disorders)

Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University

 

※参考書籍
 「口腔外科ハンドマニュアル’20 日本口腔外科学会編」 クインテッセンス出版株式会社

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