Question

誤嚥性肺炎について教えてください。

Answer

誤嚥性肺炎って何?

飲み込む力も、むせる力も弱くなって、食道へと流れるはずの唾液や食べ物、飲み物が、誤って気管から肺へと入ってしまうことが原因で起きる肺炎です。高齢者に起きやすく、ひどく体力を奪うため、寝たきりになる重大なリスクとしてクローズアップされ、広く知られるようになりました。
人間は空気の通り道(気管)と食べ物の通り道(食道)が、のどのところで交差しています。つまり、もともと誤嚥をしやすい構造になっているのです。
しかしさいわいなことに、筋肉が働き気管の入口にすばやくフタをして、食道のほうへと流れを切り替える「飲み込む機能」が発達しているため、おかげでゴックンとスムーズに飲み込むことができます。また、食べ物がうっかりと気管に入りそうになったときは、反射的に「むせ」が起き、気管に入り込むのを防ぎます。
ところが、そうした働きをする筋肉が年齢とともに衰え、うまく切り替えができなくなったうえ、むせも起きにくくなると、食道へと流れていくはずのものが、気管へスルリと入ってしまいます。これが誤嚥性肺炎の原因です。

誤嚥から肺炎発症のメカニズム

飲食物などが気管から肺に入り、炎症を引き起こします。

①飲食物を誤嚥する、②誤嚥したものが肺に入る、③炎症を起こす

誤嚥しても誤嚥性肺炎が起こるとは限らない

誤嚥をしても誤嚥性肺炎が起きないこともあります。肺に誤嚥された飲食物などに有害な細菌が含まれていない場合や、細菌に対する抵抗力(免疫力)が強い場合には発症しません。

つまり、「誤嚥」、「細菌」、「抵抗力の低下」の3つが誤嚥性肺炎の大きな原因となります。それぞれについて、対応策をご紹介します。

1.誤嚥の防止

誤嚥とは、嚥下がうまくできないことです。つまり、誤嚥を防ぐには、嚥下を上手に行う必要があります。

嚥下とは、飲食物などを飲み込むことです。これを上手に行うためには、飲み込む前の段階である口腔の機能も大切です。嚥下に関係する口腔機能としては、飲食物を取り込む、咀嚼する、飲み込みやすいようにまとめる(食塊形成)、喉に送り込む、などがあります。これらの機能では、唇・歯・頬・舌が大切な役割を果たします。

虫歯で歯に穴が開いている、歯が痛くてかみ合わせることができない、歯が抜けたまま放置している、などの状態では咀嚼がうまくできませんので、歯科医院を受診してください。

喉に送り込まれた食塊が、誤って気管に入らずに正しく食道に入るためには、気管の入り口にある声門がしっかりと閉じていることが必要です。声門を鍛える方法は幾つもありますが、人とおしゃべりする、合唱やカラオケを楽しむといった日常生活でできることが多くありますので、楽しみながら実践してください。

食事時のむせなどが気になる場合は、食事するときの姿勢を見直すことが有効な場合があります。背もたれに寄り掛からず体をまっすぐにし、顎を引いた、やや前かがみの姿勢が理想です。

また、食べ物を口に詰め込みすぎるのも禁物です、1回で飲み込める量を、ゆっくりよくかんで食べることも誤嚥防止に役立ちます。

食事時の正しい姿勢

顎は引き気味、体とテーブルの間に握りこぶし一つ分くらいの隙間、テーブルの高さは腕を載せたときに肘が90°に曲がるくらい、背もたれに寄り掛からずまっすぐに、椅子の座面の高さは膝が90°に曲がるくらい、足の裏がきちんと床(または足置き台など)につく

  • 椅子が高すぎるときは床に足置き台(雑誌などで代用可能)を置いて調整
  • 椅子が低いときは座布団などを使用
  • 背もたれと背中の間にクッションを入れることも有用な場合がある

 

2.口腔内細菌を減らす

もし誤嚥したとしても、誤嚥した食物や唾液の中に含まれる細菌がごく少数ならば、肺炎は起きません。また、細菌を誤嚥しても、肺炎の原因になる細菌がいなければ肺炎は起きません。つまり、口腔内の細菌を減らすとともに、肺炎の原因となる細菌の繁殖を抑える必要があります。手段は簡単、口腔ケアです。

積極的な口腔ケアによる肺炎予防効果

介護老人福祉施設に入所している高齢者に対し、日常的なセルフケア+定期的なプロフェッショナルケアを行った群(口腔ケア群)とそれ以外の群(対照群)の発熱発生率および肺炎発症率の比較

口腔ケアを受けた方は期間中の発熱発生率が低い、口腔ケアを受けた方は2年間の肺炎発症率が低い

米山武義ら;要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究、日本歯科医学会誌、2001

歯が1本もない人や胃ろうなどで口から食事をとっていない人にも、口腔ケアは必要です。口腔は粘膜で覆われています。この粘膜の細胞は新陳代謝により絶えず入れ替わり、古くなった粘膜細胞は、口腔内に剥がれ落ちます(剥離上皮)。つまり、垢が出てくるわけです。この垢の中でも細菌は増殖しますから、スポンジブラシなどを使い、やさしく口腔内の粘膜を掃除するようにしましょう。同様に、舌に付いた汚れ(舌苔)の掃除も有効です。義歯を使用している人は、歯と粘膜の掃除以外に、義歯の掃除も忘れずに行ってください。

また、唾液中のリゾチームやラクトフェリンなどは細菌の侵入を防ぎますし、唾液自体が食塊形成に必要な水分となり誤嚥を防ぎます。近年は唾液の分泌が減少する口腔乾燥症の患者さんが増えています。口腔乾燥症の対症療法の一つとして唾液腺マッサージがあります。

3.抵抗力を保つ

気管や肺に細菌が入ってしまっても、感染を起こす前に排除できれば肺炎を予防できます。細菌に対する抵抗力を低下させる原因には、栄養不良、加齢、過労・ストレスによる体力低下などがあります。

※参考書籍
 「nico 2012.12 クインテッセンス出版株式会社」
 「月刊 糖尿病ライフ さかえ 2018年5月号」 日本糖尿病協会

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