血液サラサラ

Q1 「血液サラサラ」の薬ってなんですか?
A1

「血液サラサラ」の薬とは、血栓ができやすく、血管がつまりやすいかたの血液を、固まりにくくサラサラにする抗血栓薬のことです。
高血圧や高脂血症などの生活習慣病や、高齢になると進みやすい動脈硬化などの影響で血管に血栓ができると、脳梗塞、心筋梗塞、心不全などの重篤な病気を発症しかねません。血管を詰まらせないためには、薬を欠かさずに飲むことが肝心です。現在日本で認可されている抗血栓薬は、代表的なものだけで数十種類。
たいへん多くのかたに飲まれているポピュラーな薬です。

※参考書籍 「nico 2011.11 クインテッセンス出版株式会社」

Q2 薬を止めないと抜歯できないってホントですか?
A2

抗血栓薬を飲んでいる患者さんの血液は、サラサラで止まりにくいという特徴があります。そのため、「抜歯を安全に進めるためには一定期間服用を休まざるを得ない」と、歯科でも医科でも以前は考えられていました。
でも、もしも休薬のために血栓ができてしまったら?!
そこで近年では、適切な検査を行って休薬せずに抜歯し、しっかりと止血処置をするガイドラインが確立され、推奨されています。
歯科と医科の連携のなかから生まれた、安心・安全な治療をご提供することができるようになりました。

※参考書籍 「nico 2011.11 クインテッセンス出版株式会社」

Q3 抗血小板薬を服用していますが、抜歯するときは薬をやめないといけないのですか?
A3

これまで、ワルファリンや抗血小板剤などを服用している患者の抜歯について多くの研究が行われています。いずれの研究も抜歯に際してそれらの薬剤の服用を中止しないことを推奨しています1-10)

抗血液凝固剤を中断したために生じる血栓問題のリスクは、中断しないために生じる出血のリスクを上回ることが報告されています11)

抗血液凝固剤を服用している患者の歯科外科手術後に局所的止血法以上の手段が要求された症例は、極めて稀であることを示す論文もあります12-13)

950人の患者に対する2,400の歯科外科手術のうち12人の患者(1.3%以下)だけが、局所的止血法以上の手段が要求されたとのことです11)

また、抗血液凝固剤服用患者で歯科外科手術後に入院したり輸血を受けた患者は非常に稀であるという報告もあります14)

その他の多くの論文も、抗血小板剤を服用している患者の歯科外科分野での出血は、局所的止血処置で処理できることを示しています15-19)

他方、歯科外科手術のために抗血液凝固剤の服用を止めたり減量したりすると、致命的な血栓症が生じることが時々あります。

抜歯のためにワルファリンを中止した場合、高度の血栓症の発生率は0.95%であり、その場合大多数の患者が死亡したことを報告しています12)

ワルファリンを減量したり服用を中止したりして行った2,673人の患者の2,775回の歯科外科手術のうち、血栓問題が22回(0.8%)生じ、そのうち6人(0.2%)が死亡したことを報告しています11)

そのほか歯科外科手術症例ではありませんが、ワルファリンの使用を中止したり減量させたりした後に内視鏡検査を行うと高度の血栓症が1.2%発生し、その場合大多数の患者が死亡するか不具になることが報告されています20)

 

1) Souto,J.C. et al. : Oral surgery in anticoagulated patients without reducing the dose of oral anticoagulant. A prospective randomized study. J. Oral Maxillofac. Surg., 54: 27, 1996

2) Devani,P. et al. : Dental extractions in patients on warfarin :Is alteration of anticoagulant regime necessary? Br. J. Oral Maxillofac. Surg., 36:107, 1998

3) Campbell,J.H. et al.: Anticoagulation and minor oral surgery: Should the anticoagulation regimen be altered ? J. Oral Maxillofac. Surg., 58 :131, 2000

4) Blinder,D. et al. : Dental extractions in patients maintained on oral anticoagulant therapy: Comparison of INR value with occurrence of postoperative bleeding. Tnt. J. Oral Maxillofac Surg., 30 : 518, 2001

5) Evans,I.L.et al. : Can warfarin be continued during dental extraction ? Results of a randomized controlled trial. J. Oral Maxillofac. Surg., 40: 248, 2002

6) Sacco,R. et al. : Oral surgery in patients on oral anticoagulant therapy – A randomized comparison of different intensity targets. OS.OM.OP.OR.Endod., 104: e18, 2007

7) Al – Mubarak,S. et al. : Evaluation of dental extrations, suturing and INR on postoperative bleeding of patients maintained on oral anticoagulant therapy. Br. Dent. J., 203 : E15, 2007

8) Salam,S. et al. : Bleeding after dental extractions in patients taking warfarin. Br. J. Oral Maxillofac. Surg., 45 : 463, 2007

9) Perry,D.J. et al. : Guidelines for the management of patients on oral anticoagulants requiring dental surgery. Br. Dent. J., 203: 389, 2007

10) Aframian,D.J. et al. : Management of dental patients taking common hemostasis – altering medication.

11) Wahl,M.J. et al. : Dental surgery in anticoagulated patients – stop the interruption. OS.OM.OP.OR., 119:136 – 157, 2015

12) Wahl.M.J. : Dental surgery in anticoagulated patients. Arch. Intern. Med., 158:1610 – 1616, 1998

13) Wahl,MJ. : Myths of dental surgery in patients receiving anticoagulant therapy. J.A.D.A.,131 : 77-81, 2000

14) Wahl,M.J. et al.: Anticoagulants are dental friendly. OS.OM.OP.OR., 125:103-106, 2018

15) Cardiac Society of Australia and New Zealand : Guidelines for the management of antiplatelet therapy in patients with coronary stents undergoing non – cardiac surgery. Heart Lung Circ., 19 : 2-10, 2010

16) Kristensen,S.D. et al. : 2014 ESC/ESA Guidelines on non – cardiac surgery : cardiovascular assessment and management : the Joint Task Force on non – cardiac surgery – cardiovascular assessment and management of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Society of Anaesthesiology (ESA), Eur. Heart J., 35 : 2383-2431, 2014

17) Grines,C.L. et al. : Prevention of premature discontinuation of dual antiplatelet therapy in patients with coronary artery stents : a science advisory from the American Heart Association, American College of Cardiology, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, American College of Surgeons, and American Dental Association, with representation from the American College of Physicians. J.A.D.A., 138 : 652-655, 2007

18) Jeske,A.H. and Suchko,G.D. : Lack of a scientific basis for routine discontinuation of oral anticoagulation therapy before dental treatment. J.A.D.A., 134:1492 – 1497, 2003

19) Roberts,H.W. and Redding,S.W. : Coronary artery stents : review and patient – management recommendations. J.A.D.A., 131 : 797-801, 2000

20) Blacker,D.J. et al. : Stroke risk in anticoagulated patients with atrial fibrillation undergoing endoscopy. Neurology, 61: 964, 2003

 

※参考書籍
 「近代口腔科学研究会雑誌Vol.44 No.1 P25~P29『抗血液凝固剤服用患者の抜歯』」
 近代口腔科学研究会

Q4 歯の根がダメになっていてうずきます。抜歯してブリッジにしたいのですが、血液サラサラの薬を飲んでいます。抜歯は無理でしょうか?それとも抗血小板薬・抗凝固薬は抜歯前に休薬すべきでしょうか?
A4

大丈夫、休薬せずに抜歯も治療もできます。お医者さんと連携して進めますのでご安心ください。

抗血小板薬は休薬の必要性が小さく、抗凝固薬はPT-INR値が3.0以内であれば、休薬の必要性は小さいでしょう。

観血処置に際して、薬剤の休薬が必要と判断されるのであれば、処方医に相談することが必要です。抗血小板薬・抗凝固薬を使用していても、その止血処置は、局所的な止血方法によって十分にコントロール可能な場合が多いです。

抗凝固療法あるいは抗血小板療法を受けている患者の歯科治療についての非システマティックレビュー
Mingarro-de-León A, Chaveli-López B, Gacaldá-Esteve C. Dental management of patients receiving anticoagulant and/or antiplatelet treatment. J Clin Exp Dent 2014 Apr 1 ; 6(2): e155-161. 

ワーファリン®使用患者に対する歯科外科処置についてのシステマティックレビュー
Nematullah A, Alabousi A, Blanas N, Douketis JD, Sutherland SE. Dental surgery for patients on anticoagulant therapy with warfarin: a systematic review and meta-analysis. J Can Dent Assoc 2009; 75(1): 41-41i.

 

※参考書籍
 「抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実」
 湯浅秀道、安藤彰啓 編著  クインテッセンス出版株式会社

 「nico 2011.11 クインテッセンス出版株式会社」

Q5 ワルファリンを服用しています。抜いた後の止血処置ではどんなことをするのですか?
A5

抜歯した穴に止血用スポンジなどを詰め歯ぐきを縫合して傷をふさぎます。手厚い処置がさらに必要な患者さんには縫った上から止血パックで圧迫・保護したり、樹脂製のカバーで圧迫・保護することもあります。

※参考書籍 「nico 2011.11 クインテッセンス出版株式会社」

Q6 現在ワルファリンを服用しています。歯科治療で次回外科処置をすると言われました。一時服薬をやめた方がいいですか?
A6

ワルファリンカリウム内服中の患者さんに対し、休薬を行った結果1%に重篤な血栓症を生じたとする報告があります。口腔内は直視下に止血ができるため、原則として休薬は行いません1)、2)必ず飲まれてお越しになってください。

1)日本循環器学会、日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン.

2)日本有病者歯科医療学会、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会編. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2020年版.

 

※参考書籍
 「病気をもった高齢者が歯科に来院されたときに読む本」
 著 松村香織 クインテッセンス出版株式会社

Q7 抜歯前にどんなことに注意すればよいですか?
A7

抜歯を受ける前にいくつかご協力いただきたい重要事項があります。

1.決して抗血栓薬を中断しないでください。

抜歯の際に止血しにくいだろうと心配なさり、自己判断で服用を中断してしまう患者さんがときどきおられます。が、これはたいへん危険ですので、中断しないようにお願いします。
また、抜歯にあたり薬の中断を希望するかどうかを医師から尋ねられた場合は、服用を継続する旨を医師にお伝えください。

2.ふだんのINR値を教えてください。

ワルファリンを飲んでいる患者さんには、血液のINR値(凝固指数)を、ふだんどれくらいの値にコントロールしているかをお教えいただいています。INR値3.0以下であれば、基本的には服用を継続したままで抜歯が可能です。
ご自分のINR値についてわからない場合は、処方している医師にご確認をお願いします。

3.抜歯直前のINR値をお持ちください。

ワルファリンを服用している患者さんのINR値は、食事や薬の飲み合わせ、体調などによって比較的短時間で変動しがちです。
安全に抜歯を行うには、抜歯当日(あるいは古くとも72時間前)のINR値の確認が必須です。
新しい血液検査の結果を当日ご持参いただけるよう、処方している医師に相談し、可能かどうか事前に確認を取っておきましょう。

4.持病の治療の担当医をお教えください。

抗血栓薬を継続しつつ、なおかつ抜歯も安全に行われるよう、歯科医師と医師が直接コンタクトをとり、連携して治療を進めます。ときには歯科医師から医師にINR値のコントロールをお願いし、可能な範囲でINR値を下げ、抜歯の準備を整えることもあります。
医療連携は、患者さんの安全な歯科治療のために必須です。

5.止血対策の準備が必要です。

歯石やプラークが溜まったお口では、炎症が起きやすく出血のリスクが高まってしまいます。そこで、事前にお口のなかのクリーニングをさせていただくことがあります。
また、出血傾向のより高い患者さんの場合、傷の圧迫・保護に用いる樹脂製の型(止血シーネ)を事前に製作するため、お口の型取りをさせていただきます。

6.抜歯の延期や、大きな病院をご紹介することも。

INR値が高く止血の困難が予想される場合、医師との連携でINR値のコントロールを安全な範囲で行い、数値の安定が確認できるまで治療を延期することがあります。
また、INR値のコントロールが困難なかた、合併症のあるかた、親知らずの抜歯、抜歯の本数が多いなどの症例に応じて、さらなる安全を期すために、大学病院や総合病院の口腔外科をご紹介する場合もあります。

※参考書籍 「nico 2011.11 クインテッセンス出版株式会社」

Q8 抜歯後にどんなことに注意すればよいですか
A8

無事に抜歯と止血処置が終わったらホッとひと安心ですね。1週間から10日程度で抜糸できますがそれまで、傷が順調に治るようにいくつか守っていただきたい重要な注意点があります!

1.1週間くらいは出血の可能性があります。

ワルファリンを服用している患者さんの場合、1週間くらいまで少量の出血が起きることがあります。しっかり縫合してあれば心配いりませんが、ご心配な際は、遠慮なく歯科医院にご相談ください。

2.内出血の青あざができることがあります。

ワルファリンを服用している患者さんの場合、麻酔の注射や、抜歯による刺激で内出血が起きることがあります。青あざは1週間で薄くなり、その後きれいに消えます。少しのあいだ気になると思いますが、そっとしておきましょう。

3.薬は指示通りに飲みましょう。

歯科から処方された抗生剤や抗菌剤は、必ず指示通りに飲みましょう。医師と相談し、抗血栓薬の効果に影響が出ないよう、処方は通常短期間(3~4日)にとどめます。服用のスケジュールがずれ込まないよう、飲み忘れに注意してください。

4.ブクブクうがいはしないで。

ブクブクうがいは、せっかくふさがってきた傷口を壊してしまい、出血の原因になります。うがいをしたいときは、水や刺激のないうがいぐすりをそっと含んで吐き出す程度にとどめます。また、傷を気にして舌で触っていると出血の原因に。気をつけましょう。

5.傷を避けて歯みがきします。

お口のなかにプラークが溜まると、歯周病で歯ぐきが腫れやすくなります。歯磨きをしなくてよいというわけではありません。そこで、傷に触らないように注意しながら、傷のないところをそっと歯みがきしましょう。

6.止血用シーネを掃除しましょう。

樹脂製の止血シーネをお使いのかたは、食後や就寝前に外してきれいにお掃除しましょう。使用は通常1週間程度です。ご不便でしょうが、しっかり止血するまでしばらく装着をお願いします。

※参考書籍 「nico 2011.11 クインテッセンス出版株式会社」

Q9 ワルファリンはさまざまな薬剤と相互作用することが知られていますが、歯科医療で処方されるどのような薬剤がワルファリンの抗凝固作用に影響を与えますか?
A9

ワルファリンとの薬剤相互作用においては、常に抗凝固作用が増強され、出血リスクが高まります。アスピリン系鎮痛薬も出血リスクを増大させますが、相互作用ではなく、薬そのものの抗血小板作用によるものです。

下記の処方が必要な場合には、患者さんの抗凝固療法を担当している病院へ照会します。

  • 非ステロイド性抗炎症薬
  • エリスロマイシン、メトロニタゾール、テトラサイクリン系、ペニシリン系などの抗菌薬
  • フルコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール(外用剤を含む)

 

※参考書籍
 「66症例に学ぶ 歯科臨床の問題解決」
 Edward W. Odell 医歯薬出版株式会社

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