Question

顎関節症の治療で歯を削られたのですが、正しい治療なのでしょうか?

Answer

文献から咬合調整を顎関節症の初期治療に行うべきではないという結果が出ています。

かつては、顎関節症の原因は噛み合わせの悪さであると思われていました。したがって「治療には、悪い咬合を正しい咬合に修正することが必要である」と、積極的に咬合調整を行っていた時代もありました。安定した咬合関係をつくることにより顎関節や咀嚼筋への過剰な負担を軽減することとされていたためです。しかし、咬合調整によって患者さんの痛みが消えた、開口量が増えたということにはつながりませんでした

咬合調整は、多くの先人によりさまざまな手法が考案されてきましたが、その対象は顎関節の痛みや開口障害のある患者さんではなく、健全な顎関節と筋組織を備えた患者さんです。顎関節症の患者さんの場合、痛みや開口障害によりもともと下顎位が不安定なうえ、筋疲労や関節痛などによっても下顎位が変化しやすい状態です。そのような状態で咬合調整を行っても、改善された咬合関係を維持することは困難です。このようなことから、咬合調整が顎関節症患者の治療で効果が上げられなかったと考えられます。

現在では、顎関節症には多様性があり、さまざまな原因で生じる疾患であることが判明していますので、初期治療では歯を削るなど咬合調整や外科的療法のような不可逆的な処置は避けるべきであるという概念が、常識になっています。患者さんに害をもたらすリスクの高い不可逆的治療を最初に選択するのは好ましくありません。

外科的処置をしない顎関節症の可逆的な保存療法には、患者教育とセルフケア、認知行動療法、薬物療法、理学療法、スプリント治療などがあります。

運動療法や理学療法などの保存療法の30年間の経過を追跡した研究があります。その研究では「治療された99名の顎関節症内障患者は治療開始後2~4年後で疼痛や開口障害などは優位に消失し、その後は30年後までほとんど症状の再発はみられなかった。また、2~8年半の縦断研究において、保存治療によって85%の患者さんに疼痛症状の消失もしくは改善がみられた」と報告されています。

このように、ほとんどの顎関節症は可逆的な保存療法によって症状が消失もしくは緩解することがわかっています。

しかしながら、初期治療がある程度進んだ段階でデータを再分析した結果、若干の咬合調整が必要な状況もあり得ます。さらに、治療が終了して症状が消失すると、その段階で咬合が不安定になって食事がしにくくなるケースもあります。そのような場合は、咬合をつくり直す必要が生じます。いずれにせよ、咬合調整はあくまで“アフターケアとして行う処置”であると、考えていただいたほうがよいでしょう。

※参考書籍
 「咬合再校正 その理論と臨床 -咬合と全身との調和-」
 山﨑 長郎/山地 正樹 編著  クインテッセンス出版株式会社

 「顎関節症のリハビリトレーニング」
 木野 孔司 編著  医歯薬出版株式会社

 「顎関節症Q&A 自分でできる予防と治療のアドバイス」
 中沢 勝宏  医学情報社

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