Question

痛む場所が次々に移り、毎回痛いところが変わります。何が原因ですか?

Answer

そのような場合は、特発性歯痛が疑われます。

特発性歯痛とは、「歯または抜歯した後の部位に、数か月から数年以上にわたり慢性持続性の耐え難い痛みが生じているが、臨床的にも画像上でも痛みに見合うだけの異常は認められない」という場合に、除外診断で診断される非歯原性歯痛です。痛みは覚醒している間中持続し、通常、打診痛は伴いません。

有病率は不明ですが、大学病院受診患者で1.7%1)という報告があります。

9割が女性で、40~50代に多いとされています2)。自験例では約9割が女性で、平均受診年齢は55歳でした。複数の医療機関を巡り、正しく診断されるまでに平均4~5年かかっています2)

特発性歯痛の特徴

1.疼痛の日内変動

痛みは起床後しばらく弱く、午後、とくに夕方から夜にかけて悪化します。

2.疼痛強度

通常中等度~強度で、患者さんが抜歯を希望するほどです。

3.疼痛改善因子

摂食時には痛みは改善または消失します。口の中に何かが入っているときには痛みは和らぐため、ガムや飴を常用している患者さんも多いです。

4.疼痛悪化因子

感情や環境因子によるストレスがかかると疼痛は悪化します。

5.発症の契機

7割が歯科治療が契機となって発症します3)

6.精神疾患との関連

3~4割にうつ病や不安症の既往があります4)

 

特発性歯痛と通常の歯痛との鑑別法(参考文献5)を引用改変)

特発性歯痛 歯原性歯痛
疼痛は一定で、数か月~数年以上も変化がない 疼痛には変動があり、時間とともに増悪または改善する
局所刺激は、疼痛にほとんど影響を与えない 局所刺激(温度、圧)により、疼痛は悪化する
臨床的にも画像上でも器質的な異常は認められない 臨床的または画像的に異常(歯質欠損、破折)が認められる
歯科治療を繰り返しても疼痛は改善しない 歯科治療により疼痛は改善する
局所麻酔に対する反応は不明瞭 局所麻酔で疼痛は消失する

 

*特発性歯痛で抜歯が行われる場合、主治医の多くは歯根破折を疑っています。歯原性であれば局所麻酔で疼痛は消失するため、観月には歯根膜駐車を行って確認することが有効です。

 

治療について

中枢性の痛みであるため、三環系抗うつ薬やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)による薬物療法と、痛みから注意をそらせる認知行動療法を併用することで改善が得られることが多いです。歯科治療は無効であるばかりか、繰り返すとむしろ悪化する傾向があります6)

 

1)Wirz S, Ellerkmann RK, Buecheler M, et al.: Management of chronic orofacial pain: a survey of general dentists in german university hospitals. Pain Med. 11 (3): 416-424.

2)Ikawa M: Effectiveness of antidepressants for treatment of idiopathic orofacial pain, The Journal of Headache and Pain, 2013.

3)Ikawa M, Yamada K, Ikeuchi S: Efficacy of amitriptyline for treatment of somatoform pain disorder in the orofacial region: A case series. J Orofac Pain. 20 (3): 234-240, 2006.

4)Taiminena T, Kuusaloa L, Lehtinena L: Psychiatric (axis Ⅰ) and personality (axis Ⅱ) disorders in patients with burning mouth syndrome or atypical facial pain, Scandinavian Journal of Pain 2, 155-160, 2011.

5)Melis M, Secci S: Diagnosis and treatment of atypical odontalgia: a review of the literature and two case reports. J Contemp Dent Pract.; 8 (3): 81-89, 2007.

6)井川雅子, 山田和男: 口腔顔面部の特発性疼痛疾患 口腔内灼熱症候群と持続性特発性顔面痛. 日本頭痛学会誌, 46 (1), 70-79, 2019.

 

※参考書籍
 「臨床現場で役立つ“痛み”の教科書 vol.45 No.672」
 株式会社デンタルダイヤモンド社

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