Question

全身疾患をもっているとインプラント治療に影響すると言われましたが、本当ですか?

Answer

高齢者でのリスク

一般に高齢になることで全身疾患を保有する頻度が高くなるため、これがリスクになります。そのため、①現在健康であること(種々の検査に問題となる異常がない)、②これからの平均余命、③インプラント治療が最善か(他の補綴治療とインプラント治療との比較が重要)の3点に関して、歯科医師として患者さんへのインフォームド・コンセントを行うことが重要です。

 

若年者でのリスク

成長が停止すれば治療は可能です。成長停止時期は個人差があるので、慎重に適用を検討しなければなりません。

 

喫煙

喫煙は歯周病を悪化させます。喫煙を継続すると歯周病が悪化するだけでなく、インプラント周囲炎やインプラント周囲骨の吸収を惹起する可能性が高くなります。喫煙経験年数と1日の喫煙量、タバコの種類を確認し、インプラント治療に先立って禁煙指導を行います。

 

循環器疾患

高血圧

高血圧そのものはインプラントの予後に対するリスクファクターではありません。

 

心疾患

代表的な疾患としては虚血性心疾患、不整脈、心不全、心臓弁膜症、心筋症、先天性心疾患などがあります。

虚血性心疾患には心筋梗塞と狭心症があり、術後の後遺心臓障害の評価のために医科との対診は不可欠です。生体情報モニタ下での手術、あるいは麻酔医の立ち合いで静脈内鎮静法を併用します。虚血性心疾患そのものはインプラント治療の予後に対するリスクファクターではありません。

 

脳血管障害(脳卒中)

抗血栓療法を受けている患者さんへの対応は次の4つがあります。

  1. 多数のインプラント体の埋入は避ける
  2. 内出血斑(皮下出血)出現の可能性があります
  3. 抗菌薬、鎮痛薬の投与に注意する(ワルファリン作用増強、ビタミンK欠乏など)
  4. 抗凝固薬および抗血小板薬の処方医や口腔外科専門医との医療連携が重要である

 

抗血栓療法そのものはインプラント治療の予後に対するリスクファクターではありません。

 

血液疾患

貧血のうち、日常的には鉄欠乏性貧血が多いです。日常生活に支障がない貧血患者さんでも、その程度により術後さまざまな障害が発生する可能性があります。

たとえば、酸素の運搬機能低下により組織の酸素欠乏が生じ、その結果、創傷治癒不全、局所の免疫能の低下となり、術後感染、インプラント周囲炎のリスクが大きくなります。原因が明らかでも、Hb:10g/dL未満であればインプラント体埋入手術は延期します。

 

消化器疾患

消化器疾患としては、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、肝機能障害、膵臓疾患などがあげられます。胃炎、胃・十二指腸潰瘍の既往がある患者さんでは術後の投薬などに注意を要します。

 

肝機能障害

肝機能障害の代表はウイルス性肝炎、肝硬変、肝がんなどですが、急性期、あるいは末期でなければインプラント手術に直接の影響はないことが多いです。しかし、院内感染は大きな脅威となるため十分な注意が必要です。肝硬変では出血傾向があり、術中・術後の出血が問題です。

また、肝機能障害は、創傷治癒の遅延を招くため、インプラント治療の成功を妨げる全身的リスクとしても問題となることがあります。

  1. 活動期に手術を行うことは避ける
  2. 重症肝機能障害では出血傾向が問題となる
  3. 免疫機能低下、低タンパク血症による創傷治癒不全が生じる
  4. B型、C型肝炎ウイルスによる院内感染のリスクが生じる
  5. 一般的にAST、ALTが3桁を超えている場合、インプラント体埋入手術は延期する

 

腎機能障害

腎機能障害では易感染症や口腔感染症が発現することがあり、循環器系疾患との合併症に注意します。

  1. 合併症(高血圧、浮腫、うっ血性心不全など)を伴うことが多い
  2. 治療前のスクリーニング検査で腎機能障害があれば医科にて詳細な検査を行う
  3. 腎機能障害により易感染性、タンパク血症、口腔乾燥症、腎性骨異栄養症が発現する可能性があり、これらがインプラント治療にマイナスの影響を及ぼす
  4. 抗菌薬の選択に際しては、クレアチニンクリアランスを参考に、ペニシリン系、セフェム系を投与する
  5. 腎透析を受けていると低カルシウム血症により骨質の低下が起こり、オッセオインテグレーションが阻害される。また免疫脳の低下による易感染性、易出血性など、手術に対するリスクも高い。そのため、高度の腎機能障害がある場合、および腎不全で透析を受けている患者さんではインプラント治療は禁忌である

 

呼吸器疾患

気管支喘息
  1. アトピー型、非アトピー型(高齢者に多い)、薬物誘発型に分類される
  2. コントロール良好であれば安全
  3. アスピリン喘息では非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は死に至ることがあり禁忌である
  4. 喘息の誘因となるストレスを避ける(痛み、刺激臭、咽頭部への水の流れ込みなど)
  5. 治療中に発作が起こってしまった場合はただちに治療を中止し、座位にて患者さん持参の気管支拡張薬あるいはステロイドを吸入させる。発作がおさまらず、呼吸困難を訴える場合にはアドレナリンの皮下注射をするとともに緊急搬送を行う。

 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性気管支炎、肺気腫またはその両者の併発による閉塞性換気障害を主徴とします。患者さんの大部分は喫煙歴があり、喫煙は最も重要なリスクファクターです。インプラント治療に際しては、ほとんどのCOPD患者に呼吸困難が認められるため、長時間の手術や治療を行うことができません。短時間でも症状憎悪の誘因となるようなストレス(疼痛、咽頭部への水の流れ込み、切削片や器具の誤嚥など)は極力避けなければなりません。

 

糖尿病

糖尿病のリスクとしては次のようなものがあります。

  1. 十分にコントロールされていても、長い病脳期間を有する症例では他臓器障害を併発している
  2. 手術中、手術後の低血糖、高血糖に注意する
  3. 高血糖は組織、細胞を低酸素状態に陥らせ、好中球の機能を低下させ、創傷治癒不全の原因となる。また、経過中のインプラント周囲炎発生のリスクとなる
  4. インスリン欠乏、高血糖状態は骨芽細胞の機能や数を低下させ、オッセオインテグレーション獲得を阻害する可能性がある
  5. インプラント体埋入手術に対する糖尿病のコントロールは、通常の待機手術の基準である空腹時血糖:140mg/dL以下、ケトン体(―)、HbAlc:6.9%(NGSP値)未満を適用する
  6. 術後は咀嚼機能が向上するので、過食にならないよう医科と連携して食事のコントロール、指導を行う。歯科ではメインテナンスと歯周病の管理を行う

 

糖尿病はインプラント体埋入手術、および予後に対するリスクファクターです。

 

骨粗鬆症

骨粗鬆症のリスクとしては次のようなものがあります。

  1. 骨密度低下、骨質劣化⇒初期固定失敗のリスク
  2. 正常なリモデリング不能⇒オッセオインテグレーションの維持不能
  3. 骨粗鬆症治療薬として、ビスフォスフォネート系薬剤または骨吸収抑制薬を投与されている骨粗鬆症患者では、骨吸収抑制薬関連顎骨絵師(ARONJ)を引き起こすリスクがある

 

インプラント治療では、インプラント体埋入手術により骨への侵襲が加わることが問題となりますが、上部構造装着後も、インプラントには天然歯のような上皮付着の機構がないため、常に生体内環境と外部環境が交通している状態であり、インプラントの治療期間、あるいはメインテナンス期間すべてにわたってARONJ発生のリスクがあると考えられます。したがって、骨吸収抑制薬やビスフォスフォネート系薬剤を投与されている患者に対するインプラント治療では、処方医師と密接な連携を取り、慎重な手術、厳重なメインテナンスの対応が必要とされ、さらに将来的なインプラントの経過不良や顎骨壊死の可能性について十分なインフォームド・コンセントがなされなければなりません。

 

自己免疫疾患

潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群、天疱瘡、膠原病などの自己免疫疾患に罹患している患者さんには、ステロイド薬が長期間にわたって投与されている可能性が高いです。ステロイド薬が投与されている患者さんのリスクには、副腎不全、易感染性、骨代謝への影響、口腔乾燥などがあります。

 

骨代謝への影響

ステロイド薬が骨形成・骨吸収に影響を及ぼします。そのため、ステロイド薬はオッセオインテグレーションの獲得・維持においても大きな問題となります。また、続発性骨粗鬆症のうち最も頻度の高いものは、ステロイドの長期投与により生じるステロイド性骨粗鬆症です。ステロイド性骨粗鬆症のガイドラインによれば、第一選択薬はビスフォスフォネート系薬剤であるため、ステロイド薬投与患者のインプラント治療は、オッセオインテグレーションの獲得・維持についても大きなリスクを背負っているばかりではなく、その治療薬によるARONJ発現のリスクも伴っていることになります。

 

口腔乾燥

口腔乾燥をきたす自己免疫疾患では口腔内清掃が困難な場合もあり、オッセオインテグレーション維持のリスクとなりうるので注意が必要です。

 

精神・神経系疾患

精神疾患

神経症、統合失調症、人格障害、うつ病などの精神疾患により、感情面の長期の安定が得られていなければインプラント治療は避けましょう。

うつ病における自殺の危険性や統合失調症における幻聴、幻覚、被害妄想などがインプラント治療を契機に発現、あるいは悪化する可能性があります。

 

パーキンソン病

パーキンソン病とは、手指や下顎、上股の振戦、動作や歩行困難といった運動障害を示す進行性の精神変性疾患です。手指の運動障害が生じるため、インプラント治療を実施した後に十分なメインテナンスが期待できず、施術に対する身体保持も困難となることが予想されます。そのため、パーキンソン病を発症した患者さんへの新たなインプラント治療は避けるほうが望ましいです。また、インプラント治療を施行した患者がパーキンソン病を発症した場合には、早期の段階でインプラント上部構造を口腔管理が容易な形態へ改変することが望ましいです。

 

※参考書籍
 「口腔インプラント治療指針2020」
 公益社団法人 日本口腔インプラント学会 編
 医歯薬出版株式会社

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