Question
BP製剤(ビスホスホネート製剤)と歯科治療の関係について教えてください。
Answer
骨粗鬆症やがんの骨転移の治療に使う「ビスホスホネート製剤」という薬の副作用によって、顎の骨が壊死する患者さんが増えています。
歯科治療のためにビスホスホネート製剤を休薬したほうがよいのでしょうか?
これまでは歯科治療をする場合には休薬をして治療をすべきであるという見解がありましたが、2016年の夏に学会で次のような報告がありました。
- ビスホスホネート製剤の服用前に歯科を受診し、口の中の衛生状態を改善し、抜歯などの歯科治療を投薬開始2週間前までに終えることが望ましい。
- すでに薬を服用している人でも歯科治療を受診するべきであり、休薬しても症状が改善するとは限らない。
命に関わる疾病に使う薬のため服用をやめるのは難しく、治療を進める上では医師と歯科医師の連携は欠かせません。
また、2016年9月にポジションペーパーが刊行され、次のように見解の変更がありました。
発生原因の差異について
発症は注射薬が多いとされてきましたが、経口薬も注射薬と同等の発症とされました。
歯科処置時に休薬が必要な投与期間について
経口投与3年以上から4年以上に変更されました。
休薬期間について
3ヵ月から2カ月に短縮されました。
参考 これまでの見解
ビスホスホネート系薬剤(ビスフォスフォネート)は、破骨細胞の活動を阻害させ、骨の吸収を防ぐ薬剤です。骨粗鬆症、変形性骨炎、腫瘍の骨転移、多発性骨髄腫、骨形成不全症などの疾患の予防と治療に用いられています。このお薬を継続的に服用している患者さんが歯科の外科的処置を受けると、顎の骨の壊死が起こることがわかっています。
しかし、ビスホスホネート製剤を使っている人は歯科治療を受けることができないかというと、必ずしもそうではありません。問診時に使用状況などを詳しくお聞きし総合的に判断します。
1. 病院で注射をしていますか?
ビスホスホネート製剤は経口剤と注射剤のものがあります。経口剤は病院から処方される薬ですので、ご自身で服用しているという自覚があります。ところが、注射剤になるとビスホスホネート製剤を服用していると気づいていない患者さんもおられます。適切な判断をするためにビスホスホネート製剤の注射剤を投与しているかどうかを確認することは大切です。
2. どのような疾患でこのお薬を服用していますか?
骨粗鬆症または腫瘍の骨転移予防等で内服します。腫瘍の骨転移予防等で内服している場合は、抗腫瘍薬の影響も考慮する必要があります。
3. いつ頃から服用していますか?
骨吸収抑制薬のBP製剤は、骨密度増加効果と骨折抑制効果に関する長期間のエビデンスが多く、骨粗鬆症治療薬の主流となっています。閉経前の患者さんから高齢の重症な患者さんまで、幅広い骨粗鬆症患者さんに処方されています。
しかし、BP製剤は、長期間服用したことに関連するとみられる顎骨壊死が歯科治療では問題となってきます。国内における経口のBP製剤投与による顎骨壊死などの発生頻度は、日本口腔外科学会が実施した調査によると、0.01%~0.02%程度と推定されています。
A) 『投与期間が3年未満』でかつ『他にリスクファクターがない』
侵襲的歯科治療を行なっても差し支えはありません。
※ BP製剤の休薬は、原則として不要。
B) 『投与期間が3年以上』または『3年未満でもリスクファクターがある』
判断が難しく、処方医と歯科医で、主疾患の状況と侵襲的歯科治療の必要性を踏まえた対応を検討する必要があります。
4. 併用しているお薬はありますか?
併用薬(ステロイド、シクロフォスファミド、エリスロポエチン、サリドマイド等)がある場合は、免疫機能の低下などにより顎骨壊死(BRONJ)が発生するリスクが高まります。
※BP製剤投薬中の患者さんの休薬についてまた、抜歯など侵襲的歯科治療後のBP製剤の投与再開までの期間は、術創再生粘膜上皮で完全に覆われる2~3週間後、または十分な骨性治癒が期待できる2~3ヶ月後が望ましいでしょう。
BP製剤を休薬するかどうかを決めるときは、医師と患者さんを交えた十分な話し合いにより、インフォームドコンセントを得ておくことが大切です。
つまり、外科処置の前後3ヶ月が休薬の目安となります。
BP製剤の休薬が可能な場合は、休薬期間が長いほど顎骨壊死(BRONJ)の発生頻度は低くなります。
そのため、骨の再構築を考えると休薬期間は3ヶ月程度が望ましいでしょう。
※参考書籍
「歯科医院のための全身疾患医療面接ガイド」
監修 柴崎 浩一 メディア株式会社
「外来・訪問診療のためのデンタル・メディカルの接点」
クインテッセンス出版株式会社